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ゴルゴサウルス(学名: 、「恐ろしいトカゲ」の意)は、約7660万年前から7500万年前の後期白亜紀カンパニアンにあたる北アメリカ西部に生息した、ティラノサウルス科に属する獣脚類の恐竜の属。化石はカナダのアルバータ州から発見されており、可能性のあるものはアメリカ合衆国のモンタナ州からも産出している。古生物学者は本属をタイプ種 G. libratus のみからなるとみなしているが、誤って本属に割り当てられた種もいる。
他の既知のティラノサウルス科と同様にゴルゴサウルスは二足歩行の捕食動物で、成体の体重は2トンを超えた。大きく鋭い歯が顎に並び、2本指の前肢は比較的小型であった。ゴルゴサウルスはアルバートサウルスに最も近縁であり、ティラノサウルスとはやや遠縁である。ゴルゴサウルスとアルバートサウルスは極めて似ており、主に頭骨と歯の繊細な差異により区別される。G. libratus をアルバートサウルスに分類する、すなわちゴルゴサウルスをアルバートサウルスのジュニアシノニムと考える専門家もいる。
ゴルゴサウルスは西部内陸海路の端に沿った豊かな氾濫原に生息していた。ゴルゴサウルスは頂点捕食者であり、数多くのケラトプス科やハドロサウルス科を捕食していた。一部地域ではゴルゴサウルスは別のティラノサウルス科恐竜ダスプレトサウルスと共存していた。両者の体格は大まかに同程度であるものの、生態的地位を異としていた証拠がある。ゴルゴサウルスはティラノサウルス科の中で化石記録が最も多く、多数の標本が知られており、個体発生や生活環およびその他生物学的観点からの研究が可能となっている。
● 記載
ゴルゴサウルスはティラノサウルスやタルボサウルスよりも小型で、体格はアルバートサウルスやダスプレトサウルスに近い。成体は全長8 - 9メートルに達した。成長しきった成体は体重約2.5トン、あるいは2.8 - 2.9トンにもなった可能性があると推定されている。これまでに発見されている最大の頭骨は頭骨長99センチメートルで、ダスプレトサウルスのものよりもわずかに小さい。
ゴルゴサウルスの歯は全てのティラノサウルス科の属に典型的である。吻部の正面に位置した8本の前上顎骨歯は小型で密に並んでおり、断面はD字型である。ゴルゴサウルスの上顎骨の最前方の歯もまた、形状が前上顎骨歯に類似する。残りの歯は断面が楕円形であり、他の大半の獣脚類ではブレード状になっている。
ゴルゴサウルスのボディプランは他の全てのティラノサウルス科と共通する。巨大な頭はS字型の首の端に備わる。大きな頭とは対照的に、前肢は非常に矮小である。前肢の指は2本だけであるが、第3中手骨が確認できる標本も複数あり、他の獣脚類に見られる第3指の痕跡が残されている。ゴルゴサウルスの後肢は地面に着かない小さな第1趾も含めてそれぞれ4本の指をもつ。他の獣脚類と比べると、ティラノサウルス科の後肢は全体的な体サイズに対して長い。長く重厚な尾は頭部と胴部のバランスを取り、重心は腰の上にあった。ある種のウロコはホロタイプ標本に存在していたが、これらのウロコは非常に小型で、さらに互いの距離も離れた状態で存在していた。別のゴルゴサウルスの皮膚化石からはより密で大型のウロコが確認されているが、ハドロサウルス科などの恐竜と比較するとそれでもきめ細かいウロコとなっている。これらの標本はいずれも特定の骨や特定の部位と関連付けられていなかった。
● 発見と命名
Gorgosaurus libratus はローレンス・ラムが1914年に初めて記載した。属名はギリシャ語の γοργος/gorgos(「恐ろしい」の意)と σαυρος/saurus(「トカゲ」の意)に由来する。タイプ種は G. libratus で、種署名はラテン語の動詞 librare(「バランスを取る」の意)の過去形を語源に持つ。
1856年にジョゼフ・ライディはモンタナ州から産出した2本のティラノサウルス科の前上顎歯を記載した。これらが何の動物の物であるかは示唆されていなかったものの、歯は大型かつ頑強で、ライディはこれらにデイノドンと命名した。マシューとブラウンは1992年にこれらの歯はゴルゴサウルスのものと区別できないとコメントしたが、デイノドンの骨格要素が存在しないため2属をシノニムにしない方針を選び、以前に命名された ?Deinodon libratus をそのままにした。
1991年にフィリップ・J・カリーはアルバータ州で標本 TMP91.036.0500 の距骨を発見した。発掘調査に同行していたダレン・タンケと共に掘り出したところ、全長5.5メートルの、推定年齢11歳の亜成体のゴルゴサウルスが産出した。この標本は、首を後ろに曲げて四肢を体の中に引き込み、尻尾を背中側に反らせた、デスポーズという姿勢を取る。この標本はロイヤル・ティレル古生物学博物館に所蔵され、2021年には最も完全なティラノサウルス類の化石としてギネス世界記録に認定された。
モンタナ州のツーメディスン累層とジュディスリバー累層から産出した複数のティラノサウルス科骨格はおそらくゴルゴサウルスに属するが、G. libratus か新種であるかは確定していない。
◎ 誤同定された種
20世紀にはゴルゴサウルスに誤って割り当てられた種も複数あった。小型ティラノサウルス科の完全な頭骨 CMNH 7541 はさらに新しい時代である後期マーストリヒチアンのモンタナ州ヘルクリーク累層 から発見され、チャールズ・W・ギルモアが1946年に Gorgosaurus lancensis と命名した。この標本はロバート・T・ベッカーが1988年にナノティラヌスに改名した。現在では多くの古生物学者がナノティラヌスをティラノサウルス・レックスの幼体とみなしている。ケネス・カーペンターはこの小型標本を1992年に Maleevosaurus novojilovi に改名したが、現在はいずれもタルボサウルス・バタールの幼体と考えられている。
● 分類と系統
ゴルゴサウルスは獣脚亜目ティラノサウルス科のアルバートサウルス亜科に分類され、わずかに後の時代に生息したアルバートサウルスと最も近縁である後のホルツによる未発表の研究では、アパラチオサウルスは元の系統的位置に戻された。ダスプレトサウルスやタルボサウルスといった他の全てのティラノサウルス科の属はティラノサウルス亜科に分類される。ティラノサウルス亜科と比較してアルバートサウルス亜科の体躯は細長く、頭骨のプロポーションは小さく上下に低く、脚の下部(脛骨)と足(中足骨と趾骨)が長い。
Gorgosaurus libratus と Albertosaurus sarcophagus の類似性ゆえに、専門家は長らく両者を一つの属に統合していた。最初に与えられたアルバートサウルスに優先権が与えられ、ゴルゴサウルスはしばしばそのジュニアシノニムと考えられた。とバーナム・ブラウンは早くも1922年にその区別を疑った。Gorgosaurus libratus は1970年にデイル・ラッセルにより Albertosaurus libratus としてアルバートサウルスに再分類され。2属を統合したことでアルバートサウルスの地理的・時間的生息範囲は大きく拡張された。他の専門家は2属を別属として扱い続け。
以下は2013年に Loewen らが行った系統解析に基づくティラノサウルス科のクラドグラム。
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◇ line-height:100%
label1=ティラノサウルス科
1={{clade
1=
label2=ティラノサウルス亜科
2={{clade
1=ダイナソーパーク累層のティラノサウルス科
2={{clade
1=ダスプレトサウルス・トロスス
2={{clade
1=ダスプレトサウルス・ホルネリ
2={{clade
1=テラトフォネウス
2={{clade
1=ビスタヒエヴェルソル
2= }} }} }} }} }} }} }}
● 古生物学
◎ 生活環
らは骨の組織学を用いて死亡年齢を推定し、ティラノサウルス科の成長と生活環を研究した。成長曲線は様々な個体の年齢と体サイズを対応させてグラフにプロットすることで作成される。ティラノサウルス科は生涯を通じて成長を続けるが、幼年期の後4年間は驚異的な成長を遂げる。この急激な成長が終わるころに性成熟が起こると考えられ、成体の成長速度は極めて緩やかになる。様々な体サイズのゴルゴサウルスの標本5つを検査し、エリクソンは急成長期における最大成長率を年間50キログラムと計算した。これはダスプレトサウルスやティラノサウルスといったティラノサウルス亜科よりは緩やかであるが、アルバートサウルスと並ぶ値である。
ゴルゴサウルスは生涯の半分を幼年期に費やした後、わずか数年で最大サイズに近い体躯まで成長する。
◎ 古病理学
Gorgosaurus libratus のホロタイプ CMN 2120 については病理研究も進んでおり、右第3肋骨、第13 - 14腹肋骨、左腓骨の論文が出ている。左第4中足骨は中央と遠位端に荒い外骨腫が生じている。右足第3指の第3趾骨は変形し、鉤爪は極めて小さく不定形であると記載された。これらの病理は別の恐竜と遭遇した際に発症した可能性がある。
別の標本には右腓骨にわずかに治癒した構造が見られ、骨に巨大な仮骨を残している。2001年にブルース・ロスチャイルドと他の古生物学者が行った研究では、ゴルゴサウルスに割り当てられた54本の足の骨に疲労骨折がないか調査されたが、発見されなかった。
● 古生態学
大半の Gorgosaurus libratus の標本はアルバータ州ダイナソーパーク累層から発見された、特に Gorgosaurus libratus の化石は7660万年前から7510万年前にあたる本層の下部から中部から産出した。モンタナ州のツーメディスン累層とジュディスリバー累層もまたゴルゴサウルスの化石が堆積している。当時この地域は北アメリカを半分に分断していた西部内陸海路の西岸に沿った海岸平野であった。ララミー変動により西部でロッキー山脈の隆起が始まると、そこから巨大な川が流れて海岸沿いの氾濫原に侵食された堆積物を運搬した。 。気候は顕著な季節性を伴った亜熱帯気候で、ダイナソーパーク累層に保存された多数のボーンベッドの堆積物に代表されるように、定期的な干ばつにより恐竜が大量死することもあった。針葉樹が林冠を形成した一方、はシダ、木生シダ、被子植物により構成された。約7300万年前には西部内陸海路が拡大を始め、かつては海抜の高かった地域にも海進し、ダイナソーパーク累層の生態系を水没させた。この海進はベアパウ海と呼ばれ、巨大なに海洋堆積物が保存されている。サウロルニトレステスの歯骨がダイナソーパーク累層から発見されており、おそらくゴルゴサウルスの思われる若いティラノサウルス科恐竜の歯型が残されていた。
◎ ダスプレトサウルスとの共存
ダイナソーパーク累層の中層で、ゴルゴサウルスはより希少なティラノサウルス科のダスプレトサウルスと共存していた。これは2属のティラノサウルス科が同所的に生息した数少ない例の一つである。現代の捕食動物の群集では、同様の体格をした捕食者は解剖学的・行動的・地理的差異により競争を制限され別々の生態的地位に分かれる。ダイナソーパーク累層のティラノサウルス科の間でのニッチの違いはまだ理解がよく進んでいない。1970年にデイル・ラッセルは、ゴルゴサウルスが一般に足の速いハドロサウルス科を積極的に狩り、彼らより重厚なダスプレトサウルスには角や鎧を纏っていて厄介で数の少ないケラトプス科やアンキロサウルス科が残されたと仮説を立てた、別のボーンベッドからは3頭のダスプレトサウルスが少なくとも5頭のハドロサウルス科と共に発見された。アルバートサウルス亜科の化石はヘルクリーク累層でも発見されたが、これはティラノサウルス属に属する種であると有力視されている。
「ゴルゴサウルス」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/)
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