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クリトサウルス(Kritosaurus、"分離されたトカゲ"の意)はハドロサウルス科(カモノハシ恐竜)の属である。化石は部分的にしか知られていないが、歴史的には重要な属である。白亜紀後期、約7,300万年前現在の北アメリカに生息していた。属名は“分けられたトカゲ”という意味で、タイプ標本の部分的な頭骨の頬骨の配置にちなんだものである。しかし、しばしばローマ鼻であるという仮定に基づいた“高貴なトカゲ”という意味であると誤訳される (最初の標本では鼻の部分は断片的かつばらばらの状態で発見され、平らな状態に復元されたため、このような意味になるはずがない)。化石資料が乏しいにもかかわらず、はるかに完全な状態で知られていたグリポサウルスがこの属のシノニムだと考えられていたことにより、クリトサウルスは1990年代までは恐竜の本に頻繁に登場していた。
● 記載
タイプ種であるKritosaurus navajoviusのタイプ標本は部分的な頭骨、下顎骨、いくつかの首から後の骨でのみで構成されている。吻部と上側のくちばし(前上顎骨)の大部分は失われていた。 頭骨の長さはくちばしの先端から方形頬骨の基部のまでの長さで87 cmと推定された。なお、方形頬骨は頭骨の後部で下顎と関節している骨である。クリトサウルスの潜在的な固有派生形質(属を識別する特徴)には前歯骨(下側のくちばし)に鋸歯状の突起がないこと、下顎のくちばし付近が鋭く下方へ曲がっていること、上顎骨が重厚で、やや長方形をしていることが挙げられる。とさかの先端はざらざらしている。保存されている最大の頭骨の長さは90 cmほどである。
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1=ウラガサウルス
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● 発見と研究の歴史
1904年、アメリカ、ニューメキシコ州、サンファン郡のオホ・アラモ近郊でバーナム・ブラウンによりクリトサウルスのタイプ標本AMNH5799が発見された。この化石は以前の探索の追加調査の結果見つかったものである。ブラウンは初め層序を決定できなかったが、1916年にカートランド累層、デナジン部層のカンパニアン後期のものと確定された 。発見時、頭骨の前半部分は大半が損失もしくは断片化されており、ブラウンは多くの断片を除外した上で、現在はアナトティタンとして知られてる標本(AMNH5730)を参考に復元した。ブラウンは初めネクトサウルスと命名しようとしたが、この名は既に他の生物に使用されたものであった。このことは属名の変更の前にブラウンのもとを訪れたジャン・ヴァーサルイスが、うっかり漏らしたことで発覚している 。ブラウンは種小名は最初の案のままに、K. navajoviusという新しい組み合わせにした。
1914年に発表されたアーチ状の鼻を持つカナダの属グリポサウルスを受けて、ブラウンは自身のクリトサウルスの鼻の形状についての考えを改めた 。除外した断片に立ち返り、以前の復元を改め、グリポサウルスに似たアーチ状の鼻のとさかを持つ姿に復元にした。この処置はチャールズ・ギルモアCharles W. Gilmoreに支持された、この種は現在はGryposaurus notabilisのシノニムとされている)、リチャード・スワン・ルルとネルダ・ライトにより1942年に発表された北アメリカのハドロサウルス科のモノグラフを通じて通説として扱われるようになった 1990年までクリトサウルス属はタイプ種であるK. navajovius、パークスのK. incurvimanus、およびグリポサウルス属のタイプ種だったK. notabilisの少なくとも3種が属しているとされた。さらにルルとライトはモンタナ州のジュディスリバー累層から発見された歯骨に基づく種Hadrosaurus breviceps(Marsh, 1889)についてもクリトサウルス属であるとしたが。
1970年代後半から1980年代にかけて、ハドロサウルスはクリトサウルスとグリポサウルスのいずれか、あるいは双方ともとシノニムであるという可能性があるという議論がやや専門的な恐竜事典に掲載されていた。 著名な恐竜事典であるデビッド・ノーマン(en)の「The Illustrated Encyclopedia of Dinosaurs」ではカナダの標本(元来はグリポサウルスである)はクリトサウルスとさる一方、 K. incurvimanus の組み立て骨格はハドロサウルスのものとされている。近年、さらにクリトサウルス属に新たな種が加わることとなった。1984年、アルゼンチンの古生物学者ホセ・ボナパルテ(en)らはアルゼンチン、パタゴニア地方の リオネグロ州にあるロス・アラミトス累層(en)のカンパニアン後期からマーストリヒチアン前期の地層から発見されたハドロサウルス類に対しKritosaurus australisと命名した。この種は現在 koerneriだと考えられている。
◎ 分離された属
1990年にクリトサウルスの歴史は新たな段階を迎える。ジャック・ホーナーとデヴィッド・ワイシャンペル(en)はグリポサウルスの頭骨は部分的で不確実だとして、再びグリポサウルスを分離した。ホーナーは1992年の論文でニューメキシコで発見された2つの頭骨を記載し、これをクリトサウルスのものとし、さらにこれらがグリポサウルスのものと明らかに異なっていることを示した。
1993年、アメリカの古生物学者エイドリアン・ハントとスペンサー・G・ルーカスはアナサジサウルス・ホルナリ(Anasazisaurus horneri)を命名した。属名は古代のアメリカ先住民のアナサジ(Anasazi)とギリシャ語でトカゲを意味するsaurosから派生している。アナサジは有名な岩棚居住者であり、アナサジサウルスの化石の発見地に近いチャコ・キャニオンに居住していた。この種は初め1992年に有力な古生物学者であるジャック・ホーナーにより命名された。ホロタイプ標本の頭骨(唯一の標本でもある)は1970年代にニューメキシコ州、サンファン郡でブリガムヤング大学のフィールドワークにより収集され、学内でBYU 12950として保管されていたものである。
2013年に発表されたアルベルト・プリエト・マルケスによるこれまでにクリトサウルスとされた標本についての研究では、ナアショビトサウルスについては独自の属として維持されたものの、クリトサウルスのタイプ標本とアナサジサウルスの標本に関しては双方に共通する部分の化石を比較した結果、区別できなかった。そしてアナサジサウルスはクリトサウルスのシノニムであるが、種としては区別できるとしてK. horneriとした。
● 生息環境
クリトサウルスはカートランド累層のデナジン部層で発見された。この地層の年代は白亜紀後期カンパニア期(7400万年前から7000万年前)である。この地層からはアラモサウルス、パラサウロロフスの一種、ペンタケラトプス、ノドケファロサウルス、サウロルニトレステス、未命名のティラノサウルス類など他の恐竜も発見されている。カートランド累層は西部内陸海路の後退 により出現した川の氾濫原であると考えられる。球果類が生い茂り、ハドロサウルス類よりカスモサウルス亜科の角竜類が多かった。北部地域でのパラサウロロフスとクリトサウルスの存在は、白亜紀後期の北アメリカにおいて南北間に動物相の差異があったなかでも、その間に交流があったことを示している。
テキサス州でカンパニア期の地層からも頭骨を含む化石が発見され、北アメリカでのクリトサウルスの化石が発見される範囲は広がった 。さらにメキシコ、コアウイラ州で部分的頭骨が発見され、K. navajoviusのものとされた。
● 大衆文化でのクリトサウルス
グリポサウルスがクリトサウルスのシノニムとされたため、1910年代から1990年まで本来のクリトサウルスの化石は曲解された姿で描かれた。カナダの標本はほぼ完全なものであったため、1920年代から1990年にかけて実際には適切なグリポサウルスとしてではなくクリトサウルスとして描かれ、議論された。 例えば、ジョン・ホーナーのハドロサウルス類の頭部の装飾に関する議論。
「クリトサウルス」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/)
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