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宮古語(みやこご)または宮古方言(みやこほうげん)、宮古諸方言(みやこしょほうげん)は、宮古列島で話される言語(方言)。琉球諸語(琉球語、琉球方言)の一つ。約2万人ほどの話者がいる。現地では「ミャークフツ」(宮古口)と呼ばれる。
2009年2月、ユネスコにより消滅危機言語の「危険」(definitely endangered)と分類された。
● 地域差
宮古語は島によって異なる。大きく、宮古島方言・伊良部島方言・多良間島方言の3つの方言に分けることができる。また宮古島方言は、細かく見ると集落ごとに異なるが、大きく北部と南部に分けられる。各島間の著しい方言差のために、話者が多い宮古島の平良方言でさえ伊良部島や多良間島では通じにくい
・ 本島南部方言(上記以外の集落)
・ 池間方言(池間島と、そこからの集団移住があった宮古島西原、伊良部島佐良浜)
・ 大神島方言
・ 来間島方言
・ 伊良部島方言
・ 多良間島方言
・ 水納島方言
● 音韻
◎ 音韻体系
宮古語を代表して宮古島南部の与那覇方言の音素を以下に示す。
・ 母音音素 /i, ï, e, a, o, u/
・ 半母音音素 /j, w/
・ 子音音素 /k, g, c, s, z, t, d, n, r, f, v, p, b, m/
・ 拍音素/N, M, V, Q/
宮古語には、/i/,/ï/,/e/,/a/,/o/,/u/の6個の母音音素がある。ïは中舌母音であるが、舌が硬口蓋に接近し強い摩擦音(単独拍または有声子音と結合するときには[z、無声子音と結合するときには[s)を伴う。八重山語のïも同様である。e,oは殆どが連母音の融合によって成立したもので、長音として出現する。宮古語では連母音の融合は盛んではなく、沖縄語や八重山語に比べるとe,oの語例は非常に少ない。(以下、表示上iと区別するために、ïはで表示する。)
狭
align=center i
align=center
align=center u
中
align=center e
align=center
align=center o
広
align=center a
半母音音素は/j,w/の2個がある。これらは(子音+)半母音+母音の形で現れる。jの語例は多くあるが、wの語例は極めて少ない。
与那覇方言の子音音素は/k,g,c,s,z,t,d,n,r,f,v,p,b,m/の14個がある。また、拍音素として、/N,M,V,Q/がある(Qはいわゆる促音)。宮古語には、日本語には現れない唇歯摩擦音f、vがある。hは宮古語の大部分で存在しない。ただし宮古島北部の大浦方言や池間島、伊良部島にはhが認められる。
北琉球諸語にある声門破裂音ʔは、宮古語の殆どの地域で音素として認められない。音声的には出現することもあるが、弁別的なものではない。有気・無気の対立もない。一方、伊良部方言では音素として/ʔ/が現れる。
宮古語では、m、vは単独で拍を構成し、長音にもなることができる。(例)[vː(売る)、[mː(芋)、[am(編む)、[juv(粥)。多良間島方言ではlも単独で拍を成す
/ri/
[ɾi /re/
[ɾe /ra/
[ɾa /ro/
[ɾo /ru/
[ɾu /rja/
[ɾja /rjo/
[ɾjo
/f/
/fi/
[fi /fa/
[fa /fo/
[fo /fu/
[fu /fja/
[fja
/v/
/vi/
[vi /va/
[va
/p/
/pi/
[pi /p/
[ps /pe/
[pe /pa/
[pa /po/
[po /pu/
[pu /pja/
[pja /pjo/
[pjo /pju/
[pju
/b/
/bi/
[bi /b/
[bz /be/
[be /ba/
[ba /bo/
[bo /bu/
[bu /bja/
[bja /bjo/
[bjo /bju/
[bju
/m/
/mi/
[mi /m/
[m /me/
[me /ma/
[ma /mo/
[mo /mu/
[mu /mja/
[mja /mjo/
[mjo /mju/
[mju
拍音素
/N/
[n,
ŋ /M/
[m /V/
[v /Q/
[k,s,z,t,c,f,v,p
◎ 日本語との対応
日本語
ア イ ウ エ オ
宮古語
/a/ // /u/ /i/ /u/
宮古語では、日本語のoとuがuになり、e音がiになり、i音がになるのが基本的な対応関係である。ただし、ス・ツ・ズの母音は、となる。
池間方言や水納方言ではがiとなる傾向があるが、c・s・zの直後ではのままである。宮古島南部ではを保っているが、狩俣・大浦など宮古島北部ではiとなる傾向がある。ただしあくまで傾向であり、明確な線は引きにくい。
○ 各行の対応関係
宮古語
/ka/ /k/,
/c/ /fu/ /ki/ /ku/
日本語
ガ ギ グ ゲ ゴ
宮古語
/ga/ /g/ /gu/ /gi/ /gu/
日本語
サ シ ス セ ソ
宮古語
/sa/ /s/ /s/ /si/ /su/
日本語
ザ ジ ズ ゼ ゾ
宮古語
/za/ /z/ /z/ /zi/ /zu/
日本語
タ チ ツ テ ト
宮古語
/ta/ /c/ /c/ /ti/ /tu/
日本方言
ダ ヂ ヅ デ ド
宮古語
/da/ /z/ /z/ /di/ /du/
日本語
ナ ニ ヌ ネ ノ
宮古語
/na/ /ni/ /nu/ /ni/ /nu/
日本語
ハ ヒ フ ヘ ホ
宮古語
/pa/ /p/ /fu/ /pi/ /pu/
日本語
バ ビ ブ べ ボ
宮古語
/ba/ /b/ /V/ /bi/ /bu/
日本語
マ ミ ム メ モ
宮古語
/ma/ /m/
/M/ /mu/ /mi/ /mu/
日本語
ヤ ユ ヨ
宮古語
/ja/ /ju/ /ju/
日本語
ラ リ ル レ ロ
宮古語
/ra/ // /ru/ /ri/ /ru/
日本語
ワ ヰ ヱ ヲ
宮古語
/ba/ /b/ /bi/ /bu/
カ行では、日本語のクが宮古語ではfuとなる。(例)[futs(口、与那覇方言)。キは、宮古島大部分ではkだが、来間島・伊良部島・池間島・宮古島保良ではcが対応し、宮古島友利でもcとなる傾向がある。ギも、来間・伊良部では/z/になる。また日本語の/kur/は、特殊な音変化を起こして促音になる傾向がある。(例)[ffu(黒、与那覇方言)、[ffamunu(暗い、与那覇方言)
日本語のハ・ヒ・ヘ・ホの子音は、宮古語のほとんどの地域でpとなる。フは、宮古語ではfuとなる。そのためクとフの区別はなくなっている。(例)[pda(左)、[pus(星)、[funi(舟)。一方で池間方言ではハ・ヒ・ヘ・ホの子音はhとなっており、フのみfuである。またバ行のうち、ブに対しては宮古語ではvが現れる。(例)[avva(油)、[suvnu(渋い)
ラ行では、リはrが脱落しとなる。
日本語のワ行子音に対して、宮古語ではbが現れる。ワだけでなく、文語のヰ、ヱ、ヲも同様。南琉球諸語全体に共通する特徴である。(例)[ban(私)、[bː(居る、座る)、[budu(踊る)
◎ 各方言の特徴
宮古島南部ではmとなるところが、大浦など北部ではnとなる傾向がある。(例)「耳」[mim(与那覇)‐[min(大浦)。
多良間島では、日本語のサ・シ・ス・セ・ソはそれぞれ/sja/,/s/,/s/,/si/,/sju/となる。(例)[ʃudi(袖)。また多良間島ではリに対し[lが出現する。(例)[tul(鳥)、[nagaʃaːl(長い)。水納島でもリに対し[lが現れるが、それも[iに変化しつつある。
大浦方言ではhが音素として現れる。これは母音aに挟まれたkが変化したものとみられる。(例)[haːha(明るい)。狩俣方言では、さらにこのhが脱落してしまっている。(例)[kaːdi(書こう)
大神島方言では、有声破裂音g・b・dが半無声化を起こし、k・p・tに近く発音される。しかし、本来のk・p・tは強い摩擦音を伴い、これらとは明確に区別されている。このような現象は琉球諸語の中でも大神方言以外に例がない。また、大神島方言では日本語のチ・ツが/k/に、ジ・ズが/g/になっているのも大きな特徴である。
大神島の対岸にあたる宮古島狩俣では、無声子音とn・rに挟まれた母音の無声化が起こる。また池間方言ではm、nが無声音で出現する。狩俣でも聞かれる。池間方言ではmに無声と有声の対立がある。
伊良部方言では、日本語のガ行子音は語中において/ʔ/となる。またカ行子音も、語中において/h/(音声は[hまたは[x)になる。(例)[kaʔam(鏡)、[axaまたは[aha(赤)
● 文法
◎ 格助詞
主格
が
ga, nu
属格
の
ga, nu
対格
を
u
与格
に
n
向格
へ
nkai
奪格
から
kara
限定
まで
gami
具格
で
si, sii
形式上、主格と属格は区別されずにnuまたはgaが使われる。
◎ 副助詞
主題にa(またはja)、対格の主題にba/baaまたはuba(狩俣方言)、焦点にduが用いられる。疑問詞疑問には下記(2)のように旧上野村新里や下地皆愛ではgaが用いられるが。
◎ 動詞
宮古語の動詞活用は、文語の四段活用と、上一段・上二段・下二段活用との区別が明確である。規則活用をする動詞は1類から3類までに分かれ、1類が四段活用、2類・3類が上一段・上二段・下二段活用に対応する。1類はさらにA〜Cの3種に分かれる。
以下、宮古島与那覇方言の活用体系を記述する。カッコ内は代表的な接辞を表している。
志向形未然形条件形1命令形連用形終止形1終止形2連体形条件形2接続形同種の活用をする動詞
書く
kaka kaka kaki(ba) kaki kak kak kakm kak kak(tskaː) kaki(tti) ik(行く)
漕ぐ
kuga kuga kugi(ba) kugi kug kug kugm kug kug(tskaː) kugi(tti)
押す
usa usa uʃi(ba) uʃi us us usm us us(tskaː) uʃi(tti) sks(切る)、ks(着る)
立つ
tata tata tati(ba) tati tats tats tatsm tats tats(tskaː) tatʃi(tti)
飛ぶ
tuba tuba tubi(ba) tubi tub tub tubm tub tub(tskaː) tubi(tti)
取る
tura tura turi(ba) turi tu tu tum tu tu(tskaː) turi(tti) ki(蹴る)、u(居る)
志向形未然形条件形1命令形連用形終止形1終止形2連体形条件形2接続形
読む
juma juma jumi(ba) jumi jum jum jum jum jum(tskaː) jumi(tti)
このほか、kav(被る)、sn(死ぬ)はB類に似た不規則活用をする。
志向形未然形条件形1命令形連用形終止形1終止形2連体形条件形2接続形同種の活用をする動詞
笑う
baraː baraː barai(ba) barai baroː baroː baroːm baroː baroː(tskaː) barai(tti) koː(買う)、foː(食う)
思う
umaː umaː umui(ba) umui umuː umuː umuːm umuː umuː(tskaː) umui(tti)
志向形未然形条件形1命令形連用形終止形1終止形2連体形条件形2接続形同種の活用をする動詞
見る
mjuː mjuː miː(ba) miːru miː miː miːm miː miː(tskaː) miː(tti) niː(煮る)
志向形未然形条件形1命令形連用形終止形1終止形2連体形条件形2接続形同種の活用をする動詞
起きる
ukuː
uki ukuː
uki uki(ba) ukiru uki uki ukim uki uki(tskaː) uki(tti) uti(落ちる)、uki(受ける)
以上の3種の他、a(言う)、amai(笑う)、ss(する)、ks(来る)という不規則活用動詞が存在する。
与那覇方言の未然形には、n(否定)、djaːn(否定)、s(せる)、smi(しめる)、ri(れる)、rai(られる)、ma(なさる)、ba(条件)などの接辞が付く。接続形はtti(〜て)を伴って使われるほか、ttiなしでも「〜て」の意味を表す。また接続形にu(居る)が付いて「〜ている」の意味を表す。
○ 地域差
動詞1類を代表して「書く」、3類を代表して「落ちる」の2語について、宮古諸方言での活用形を示す。3類の志向形・未然形に諸方言で大きな違いがある。条件形1や終止形2は存在しない方言もある。
志向形未然形条件形1命令形連用形終止形1終止形2連体形条件形2接続形
宮古島与那覇
宮古島西里
kaka kaka kaki(ba) kaki kak kak kakm kak kak(tskaː) kaki(tti)
池間島
kaka kaka ‐ kaki kats
kaki kats ‐ kats kats(ttaː) kakiː
大神島
kaka kaka ‐ kaki kak kak kakm kak kak(tika) kaki(sti)
来間島
kaka kaka kaki(ba) kake kats
kaki kats katsm kats kats(kkaː) kaki(tti)
伊良部島
kaʔa kaʔa kaki(ba) kaki kafu kafu ‐ kafu kafu(tigaː) kattʃi
水納島
kaka kaka ‐ kaki kaki kaki ‐ kaki kaki(takaː) kakiː
志向形未然形条件形1命令形連用形終止形1終止形2連体形条件形2接続形
宮古島与那覇
utuː
uti utuː
uti uti(ba) utiru uti uti utim uti uti(tskaː) uti(tti)
宮古島西里
uti uti
utira utiri(ba) utiru uti uti utim
utiːm uti uti(tskaː) uti(tti)
池間島
uti uti ‐ utiru uti utiː ‐ uti uti(ttaː) utiː
大神島
uti uti
utu ‐ utiru uti uti utim uti uti(tika) uti(sti)
来間島
uto utu utiru(ba) utiro utiː uti ‐ uti uti(kkaː) uti(tti)
伊良部島
utu uti utiri(ba) utiru uti uti ‐ uti uti(tigaː) utiː
水納島
uti uti ‐ utiru utiː
uti utiː ‐ utiː utiː(takaː) utiː
uti
○ 動詞活用形の歴史的成立過程
宮古語の動詞の終止形は、2種類が併用されている。「書く」ならばkak、kakmの2種類である。しかし、伊良部島や宮古島北部の狩俣などでは、kafu、kafumという形も使われている。また隣の八重山語ではkaku、kakunという形もある。これらのうち、mを含まないkak、kafuという終止形は、連体形と同形であり、また四段動詞では連用形とも同じ形となっている。つまり宮古語では四段動詞の連用形・終止形1・連体形の語形がそろう形となる。これらの成立過程を巡っては、北琉球諸語と同じように連用形に「をり」を付けた形から派生したとする融合説がある一方、「をり」を含んでいないとする非融合説もある。
名嘉真三成は、宮古島狩俣方言に現れるkak、kakm、kafu、kafumという4つの終止形を検討し、kafuは
・kakiworiから来ているとしている。名嘉によれば、その成立過程はkakiwori→kakjuri→kakuri→kafur→kafu→kafuである(当地の音変化規則で
・rはになる)。しかしながら、宮古語での音韻対応では、
・koがkuになり
・kuがfuになるが、
・koがfuに対応する訳ではないのでこの変化過程は不自然とも言える。名嘉は、他の語形についても、宮古・八重山語ではkakiwori→kakjuri→kakiri→kakr→kakː→kak、kakiwori→kakjuri→kakuri→kakuと変化したとしている。
内間直仁は、宮古・八重山語のkak・kakuは、連用形と同じ
・kakiが変化したものと推定している。また、kakm、kakunなどは「連用形+む」から来ているとする。内間が非融合説を取る根拠として、1.北琉球諸語では非融合の活用形(未然形haka、条件形hakeː、連体形haku)と融合形(未然形hakura、条件形hakureː、連体形hakuru)とが共存しているが、南琉球では融合形による活用形が存在しないこと、2.南琉球諸語では
・kakiにあたる形が「書く」、
・kakiworiに当たる形(例、石垣島川平でkakiur)が「書いている」の意味を表すが、北琉球諸語では
・kakiworiに当たる形が「書く」、
・kakiteworiにあたる形が「書いている」の意味を表し、構造的なずれがあることを挙げている。一方、狩俣繁久は連体形に由来するとし、しかも下一段活用だったと見て
・okeru→ukiと推定している
宮古島与那覇方言の「高い」と「珍しい」の活用を示す。
連用形条件形1条件形2終止形1終止形2連体形接続形
高い
takafu takakari takaka takaka takakam takaka takakari
珍しい
midzrafu midzraskari midzraska midzraska midzraskam midzraska midzraskari
主な接辞
ba tskaː
与那覇方言では、言い切りには、終止形1・終止形2よりもむしろtakaːnu(高い)、asaːnu(浅い)のような形がよく使われる。また、基本語幹にmunuをつけた形(takamunu)が終止形として用いられることもある、aparagi putu(美しい人。狩俣)のように語幹をそのまま名詞に前接させる形や、takaa taka nu putu(高い人。狩俣)のように、動詞を修飾するのにも使われる。
このほか、過去を表す形として、takakata(高かった)のような形がある。
「宮古語」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/)
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