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刺身


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刺身(さしみ)とは、主に魚介類などの素材を非加熱のまま薄く小さく切り、醤油などの調味料で味を付けて食べる日本料理である。 造りやお造りなどとも言う。

● 概要
刺身は素材そのものを味わう料理であり、新鮮で味の良い旬の素材を用意することが大切である。次に、素材を生かして美しく造るための切り方であり、専用の刺身包丁などを用いて、素材に応じた切り方、盛り付けがなされる。また真空調理法や低温調理法を取り入れたり、食肉の応用で大型の魚類であるマグロやブリなどを対象に熟成させて用いるなど、世界や歴史、科学などの知見などを取り入れて発展もしている。 刺身にはつまという野菜や海藻が添えられる。つまも美しく切り造り、刺身に添えて盛りつけ、一緒に食べる。つまは生のままのダイコンやワカメなどが多いが、これも旬の野菜や野草、山菜など様々である。つまのなかで、特に風味を与えるものを薬味と呼ぶ。刺身の薬味はワサビに加えて、ショウガやウメ、からしなど様々である。 現在は馬刺し、鶏刺し、レバ刺し、こんにゃく、たけのこ、ゆば、麩など魚介類以外の食品でも、生や冷たいままで美しく切り身にした料理は刺身や造りと呼ぶことがある。江戸時代にあっては魚介類以外でも、茹でたり、煮たり、焼いたりといった加熱調理をせずに食べさせる料理を刺身と呼んでいた経緯がある。また今日では加熱処理しない生の素材を刺身と呼ぶことが一般的だが、タコなど一部の食材については一度茹でて火を通したものを冷して刺身とする例もある。

● 歴史


◎ 前史
新鮮な獣や鳥の肉・魚肉を切り取って生のまま食べることは人類の歴史とともに始まったと言ってよいが、人類の住むそれぞれの環境に応じて、生食の習慣は或いは残り、或いは廃れていった。日本は四方を海に囲まれ、新鮮な魚介類をいつでも手に入れられるという恵まれた環境にあったため、魚介類を生食する習慣が残った。即ち「なます(中国の漢字では「膾」「鱠」と書く)」である。 「なます」は新鮮な魚肉や獣肉を細切りにして調味料を合わせた料理で、語源は不明であるが、「なましし(生肉)」「なますき(生切)」が転じたという説がある。一般には「生酢」と解されているが、それは調味料としてもっぱら酢を使用するようになったことによる付会の説であり、古くは調味料は必ずしも酢とは限らなかった。この伝統的な「なます」が発展したものが刺身であり、中国南北朝時代に動物の生肉を用いた膾から魚を用いた鱠の方が一般的となり、唐代に魚の薄切りを調味料で和えて食べる鱠が流行し、宋代に至ると現在の形態に近い刺身を調味料に付ける食べ方が広まった。 「鱠」という漢字は古代中国の膾と同じ意味で用いられたが、中国では動物肉を生食する習慣は疫病の流行などで徐々に廃れ、魚肉を生食する鱠が専らと成った。薄く切身にした魚を調味料で食す、鱠や刺身の食法は唐代から宋代に掛けて、その時代の流行した調理法(主として調味料の違い、下記の通り)と共に日本へ伝来した。

◎ 刺身の登場
『鈴鹿家記』応永6年(1399年)6月10日の記事に「指身 鯉イリ酒ワサビ」とあるのが刺身の文献上の初出である。醤油が普及する以前は、生姜酢や辛子酢、煎り酒(削り節、梅干、酒、水、溜まりを合わせて煮詰めたもの)など、なますで用いられる調味料がそのまま用いられた。「切り身」ではなく「刺身」と呼ばれるようになった由来は、切り身にしてしまうと魚の種類が分からなくなるので、その魚の「尾鰭」を切り身に刺して示したことからであるという。一説には、「切る」を忌詞(いみことば)として避けて「刺す」を使ったためともいわれる。いずれにせよ、ほどなくして刺身は食品を薄く切って盛り付け、食べる直前に調味料を付けて食べる料理として認識されるようになったらしく、『四条流包丁書(しじょうりゅうほうちょうがき)』(宝徳元年・1489年)では、クラゲを切ったものや、果てはキジやヤマドリの塩漬けを湯で塩抜きし薄切りした料理までも刺身と称している。 『康富記』の文安5年8月15日(1448年9月13日)の記事に「鯛指身」に関する記録があった。

◎ 刺身の異称
刺身とよく似た料理に「打ち身」がある。文献によっては刺身と混用されていることもあるが、こちらは総じて刺身よりも分厚く切り、盛り付けに鰭(ひれ)だけでなく皮や中落ちまでも利用するなど、調理法が極めて多彩かつ複雑であった。しかし、対象となる魚の種類がタイかコイに限られていたこともあり、より簡便な刺身が普及するにつれ、室町時代末期にはほとんど刺身と区別がつかなくなり、江戸時代に入るとともに料理名としても廃れた。 かつての西日本では、原則としてタイなどの海の物に限られているが、魚を切る事を「作り身」といい、それに接頭語を付けた「お造り」という言葉がうまれた。そして淡水魚の場合は「刺身」といったことが『守貞謾稿』に記されている。現在では異なっている。 懐石や会席料理などの場合には、お膳の向こう側に置かれることから、向付(むこうづけ)と呼ばれる。

◎ 近世
料理としての刺身は、江戸時代に江戸の地で一気に花開いた。そもそも京都は、鯉のような淡水魚を除けば新鮮な魚介類が得られにくいため、いわゆる江戸前の新鮮な魚介類が豊富に手に入る江戸で、刺身のような鮮度のよい魚介類を必要とする料理が発達するのは当然のことであった。 もう一つの理由は、調味料として醤油が入手しやすくなったことである。江戸時代中期、生魚の生臭さを抑える濃口醤油が江戸に近い野田で大量生産されるようになり、需要を賄った。後述の通り、魚を生食する文化は日本以外にも存在するが、特定の種類の魚の調理法に限定されている。江戸時代の江戸で生まれた、多種多様な魚介類を刺身として生食する習慣は、まさしく醤油という生の魚と相性が抜群によい調味料あってこそのものであった。 また醤油の普及は、生の魚と飯を即席であわせて醤油をつけて食す料理、握り寿司につながった。 また刺身の普及によって、カツオやマグロのような、塩漬や加熱調理した場合に食味が落ちる魚についても、美味しく食べられるようになった。マグロは江戸時代中期までは塩漬したものを煮るか焼くかで食すのが普通であり、あまり美味とはみなされず、それゆえに安価な魚であった。江戸時代後期から、醤油漬けにしたマグロを生食するようになり、これが美味であるとして人気が高まった。 歌川豊国の『当世娘評判記』には、大皿に刺身とつまを盛ったものがかかれている。こういった状況を喜多川守貞著『守貞漫稿』1853年では次のように記している。 幕末には、京阪は四季に関係なくタイばかりを使用している上、切り方から盛り付けまで乱雑である(『守貞漫稿』)と批判されるほどにまで差がついていた。 『守貞漫稿』には屋台の「刺身屋」が登場し、これは江戸前のカツオとマグロが主であり、大変に繁盛したとされている。また、皿に好みの刺身を盛ってもらう「刺身盛り合わせ」の形式が誕生した。魚を薄く精巧に切った「平作り」(「斬目正しく」)などについて次のように記述している。

◎ 近代〜現代
近代に入ると、流通の発達や冷蔵設備の普及、冷凍技術の発達に伴い、日本全国津々浦々で新鮮な刺身が食べられるようになった。 特にマグロに関しては、近世までは醤油漬が江戸で食されたに過ぎないが、冷蔵技術の進歩により、全くの生の状態で日本中に流通するようになった。またサケや一部のイカのように、寄生虫を持つために従来は生食に適さなかった魚も、冷凍処理で寄生虫を殺す事で生食できるようになった。もっとも、大正時代頃まで刺身といえばヒラメやタイのような身の透き通った魚を使ったものに限られ、例外のカツオを除いた「色物」の刺身は下魚として蔑まれていた経緯がある。

● 調理法
魚の刺身の調理法は、以下のようなものである。

◎ 水洗い
魚のうろこをうろこ引きや出刃包丁で魚の尾から頭に向かってかき取る。えらぶたから、えらを切り取り、腹を開いて内臓を取り出し、水でよく洗う。なお、海水魚に良く見られる食中毒の原因菌として腸炎ビブリオが知られている。この腸炎ビブリオは真水の中では増殖できないため、海水魚はよく真水で洗っておくと良いとされる。

◎ おろす
頭を切り落とし、背骨から身を切り離す。三枚おろしや五枚おろし、大名おろしなどの方法がある。おろした身から、腹骨や血合い骨を取り除き、皮を包丁で引いて取り、さくどりをする。

◎ 造る
さくどりした身を刺身包丁で切って造る。包丁を直角にし右から切っていく平造り、包丁を寝かせて左から切っていくそぎ造りが基本とされる。皿につまとともに盛り付ける。その際、奥を高く、手前を低く風景のように盛り付けるのが基本とされている。このような盛り方を山水盛りという。

● 種類
刺身とする食品は、一般的にはタイやヒラメ、マグロやブリなどの魚類に加えて、イカや貝類、エビなど、魚介類全般が用いられるが、魚以外の野菜や馬肉・牛肉等を生食する場合にも刺身と称する場合がある。 調味料も食品に応じて様々で生醤油の他に、煎り酒、土佐醤油、ポン酢、酢味噌、古くは酢や塩など用いる。 刺身には、切り方や盛り付けで、多種多様な造り方(作り方)がある。刺身を作る際に考慮されるのが、美しさと、その食品の特性である。魚であっても白身魚と赤身魚では食感に大きな違いがあり、故に刺身の切り方にも違いが出てくる。
・ 平造り : さくどりした身の薄い方を手前に置き、右側から包丁を直角にあて、一度に引き切る。この工程を「引き造り」とも言い、引き造りで切り離した身を右に寄せてを平造りとする。また、刺身に厚みが出る。平造りは主にマグロやカツオの赤身、ブリなどの青魚に用いられる。魚の繊維を切る方向。
・ そぎ造り : へぎ造りとも。さくどりした身を、左側から包丁を寝かせて薄くそぐように引き切る。白身魚は赤身魚と比較すると弾力性が強く、これをいかすため魚の身の繊維に対して平行して切る。 このように、食品によって刺身が様々な手法で切り分けられるのが一般的である。これ以外にも下記のような様々な造りや切り方が存在する。
・ 薄造り - 身の硬い白身魚を皿が透けて見えるほど薄く切りつけたもの。フグやヒラメ、カワハギなど。
・ 姿造り - 尾と頭を付けた状態で供する。尾頭付(おかしらつき)ともいい、神饌や祝い事の席などで用いられることが多い。
・ 細造り - 身の硬い魚やイカなどを、斜めや縦に細く切る。糸造りとも。
・ 角造り - 身の柔らかいマグロやブリ、カツオ等を、サイコロ状に切る。
・ 山かけ - 刺身にとろろをかけたもの。特にマグロの角造りを用いる。
・ たたき - 柵取りした身の表面を炙ったもの。
・ 背越し造り - 頭と内臓、ヒレを取った身を、小口から骨ごと薄く切って刺し身にする。酢でしめる場合もある。アユやフナ、アジ、タチウオなど。
・ 皮霜造り - 皮目に旨味がある魚の皮を引いていない柵を使い、食べやすくするため皮に熱を通し、冷水で冷ましたもの。湯をかけたものを「霜降り造り」や「湯霜造り」、皮を炙ったものを「焼霜造り」という。タイの場合は特に松皮造りとよぶ。
・ ちり造り - 骨切りした魚を熱湯にくぐらせてから冷水で冷やしたもの。ハモの落とし。
・ 洗い - そぎ造りや細造りにした身を冷水に浸けたもの。白身の他、コイも。
・ 活き造り - 魚介を生かしたまま捌くこと。元の魚介の姿を模して供されることも多い。アカガイやホッキガイなど、貝類は海水から揚げてもしばらく生きているため、結果として活き造りになる。
・ 花造り
・ 昆布じめ - 昆布に挟んで旨みと風味を付ける。昆布押しとも。
・ きずし - 塩と酢で魚をしめたもの。膾とも。
・ 中落ち - 背骨。または周りの赤身を寄せ集めたもの。中打ちともかき身造りとも。
・ 相造り - 白身と赤身の刺身を並べたもの。
・ 厚造り - 田舎造りとも。分厚く切る刺身。
・ 笹造り - サヨリやキスなど細い魚を斜めに切る。
・ 鹿の子造り - 食べやすくするため表面に格子状の切れ目を入れたもの。皮目に旨味はあるが皮の厚い魚やイカ、貝類に用いる。

◎ 刺身とお造り
切り身を盛り合わせて大根や大葉などの「あしらい」や尾頭で飾り付けたものや、昆布で締めるなど切り身にひと手間加えたものを“造り”と呼ぶようになった。対して飾り気のない切り身全般を“刺身”と呼ぶ傾向にある。 また一つの器に一種類の魚だけを盛りつける一器一種が古くからの習わしだが、客が持参した皿一枚に種々の刺身を盛りつける、江戸前の「刺身屋」での売り方が、盛り合わせの起こりと言われる。

● 課題や健康リスク

◇ イメージ : 「刺身」は、現在では海外でもそのまま"sashimi"(あるいは"sushi")で通じるようになってきているが、従来の一般的な英語訳は"raw fish"(生魚)であった。こうした翻訳の問題もあって、生の魚肉を食する習慣が無い地域では、「日本では魚などを生のままで食べている」という理解されることがある。これは「気持ち悪い」という悪いイメージであり、生で食べることが良く思われていないことによる。「生」を「釣ったばかりで未調理の丸のままの魚」の意味にとられている場合もある。
◇ 不充分な知識による調理 : 有毒魚や、寄生虫がいる川魚、一部の貝類などの生食で事故が発生しやすい。正体のわからない魚の試食は避ける。特に致死性の高いフグにおいては免許を持たない者の調理は、法令でも禁止されている。
◇ 日本国外での危険 : 生で食べると食中毒や寄生虫に感染する危険がある。もちろん、伝統的に食されているものは危険性が低いからこそ食べられ続けているのであるが、外国などにおいて生食に適さない材料を刺身として提供された場合にはそうした危険が生じる場合もある。顎口虫(がっこうちゅう)などはその例である。
◇ 生もの : 鮮度の落ちやすい魚や鮮度が悪い魚、不衛生な調理では、食中毒や蕁麻疹、アナフィラキシーショックを発生させる危険がある。
◇ 体質 : 体質や生の魚肉に体が慣れていない一部の人が刺身を食べることによって、グリセリドなどの脂肪分を十分に分解できずに腹を下すなどの変調を起こすことがある。

● 魚介類以外の刺身
魚介類に限らず、食品を小片に切って形を整え、わさび醤油などで食する料理を刺身と呼ぶ場合がある。主な食品としては以下の例がある。
・ こんにゃく
 ・ 加工品としてのこんにゃくを短冊切りなどにしたものをわさび醤油や酢醤油、酢味噌などで食すものである。地方によってはその歯ざわりから山ふぐとも称される。
・ 湯葉
 ・ 生湯葉を用い、わさび醤油、酢味噌などで食す。
・ 蒲鉾
 ・ 板付きの蒲鉾などをそのまま、短冊切りにしてわさび醤油などで食す。居酒屋や蕎麦屋の酒肴として知られる板わさはその一種である。
・ 肉類
 ・ 生食用の新鮮な馬肉は刺身で生食されるほか、鯨肉なども刺身として知られる。牛肉や豚肉、また鶏肉も刺身とされるが、食中毒や寄生虫感染のリスクが高いために許可されたもの以外は禁止されている事から、加熱したり茹で上げたりした身を刺身と称してわさび醤油、ポン酢などで食する料理がある。沖縄県では皮を炙った山羊肉を刺身にして食べるほか、茹でた豚の耳や顔の皮を酢味噌などであえたものを「ミミガー(耳皮)の刺身」と呼んでいる。
・ 海藻類
 ・ ワカメ等。刺身ワカメ等の名称で、わさび醤油で生食することを前提に若干の流通がある。
・ 野菜類
 ・ 採って数時間以内の物は、一般的に知られる味とは別な味を示し、わさび醤油などで風味を堪能できる物もある。ダイコン等。
・ タケノコ
 ・ アクが少ないタケノコが新鮮なうちに入手できる場合、刺身として食される。
・ アボカド
 ・ アボカドの果肉は鮪のトロ刺身に似た味わいがあるとされ、ワサビ醤油などを添えて「アボカドの刺身」などとして料理本などに記載されている。

「刺身」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/
2024年11月6日22時(日本時間)現在での最新版を取得

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