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中房温泉(なかぶさおんせん)は、長野県安曇野市にある温泉。江戸時代から続く老舗の温泉宿である。日本百名湯。膠状珪酸および珪華は国の天然記念物に指定、本館菊など建造物7棟は国の登録有形文化財に登録されている。飛騨山脈(北アルプス)表銀座、燕岳への登山口としても知られる。中部山岳国立公園内に位置する。
● 地理
安曇野の平地部、穂高温泉から長野県道327号槍ヶ岳矢村線を登った先にある旅館が中房温泉である。標高1,462メートル。
なお、中房温泉にほど近い国民宿舎「有明荘」、ふもとの穂高温泉は別の源泉を利用した、中房温泉とは異なる温泉である(後述)。
● 歴史
当地に伝わる「魏石鬼八面大王」伝説に温泉への言及が見られる。平安時代、坂上田村麻呂の東征にまつわる物語であり、当地に温泉が存在するという事実は古くから知られていた。現在の中房温泉旅館の始まり(開湯)は江戸時代、文政4年(1821年)のことである。
● 施設
◎ 客室
建物は本館・新館(別館)があり、客室は合わせて50室、すべて和室で、収容人数は150人。食事は本館に限っては食堂においてのみ可能。新館(別館)では食事処以外にも部屋食が可能である(要予約)。営業期間はおおむね4月下旬から11月下旬まで。チェックインは15時から、門限は23時、チェックアウトは10時である。団体・ペットを連れての利用は不可となっている。
◇大浴場
:内風呂としては最大の広さ。混浴(時間帯により女性専用となる)。
◇大湯
:下はサウナ風呂、上は見晴らしの良い浴槽という2階建て構造。
◇不老泉
:ヒバの梁とヒノキの壁が特徴。混浴(時間帯により女性専用となる)。
◇岩風呂
:広葉樹林の山々を背景に、湯元から立ち上る湯煙を望む。朝焼けを見ることも可能。時間帯により女性専用となる。
◇白滝の湯
:入浴しながらの森林浴が可能。夜間は清掃のため利用不可。
◇滝の湯
:混浴(時間帯により女性専用となる)の打たせ湯。
◇菩薩の湯
:湯元そばに菩薩像を建立。夜間は清掃のため利用不可。
◇月見の湯
:最も高台に位置する。夜空や朝焼けが美しい。
◇御座の湯
:当地最古の湯。当地を訪れたウォルター・ウェストン、古くは松本藩藩主が気に入って浸かっていたという。
◇根っこ風呂
:切り株をくり抜いて作った一人用の風呂。
◇綿の湯
:足湯。湯の花を白い綿に見立てて命名。
◇蒸風呂
:源泉の直上に設置された温泉サウナ。
◇地熱浴場
:横になって地熱を全身に受ける(岩盤浴)。夜空や朝焼けが美しい。
◇湯原の湯
:日帰り入浴施設。かつての登山客向け売店の建物を改装。合戦沢の転石を用いた浴槽を4つ設置している。
浴槽 源泉名(湧出地) 泉質 源泉温度(℃) 湧出量(L/min)
大浴場 昭和の湯と隣接地平成新湯(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉) 91.2 38.4
大湯 蒸風呂1号と小鍋立の混合泉(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉) 77.0 80
不老泉 蒸風呂2号(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉) 92.1 21.2
岩風呂 滝の湯(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉 93.0 50.2
白滝の湯 白滝の湯(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉) 64.8 9.1
滝の湯 滝の湯(穂高有明7578-3) 単純泉 93.0 8.18
菩薩の湯 湯元「菩薩の湯」と湯元「蛇抜けの湯」(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉) 93.0 24.1
月見の湯 大弾正(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉) 88.6 56.2
御座の湯 御座の湯(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉) 94.0 18.2
根っこ風呂 山の神(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉 95.0 9.7
綿の湯 薬師の湯1号と2号と3号の混合泉(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉) 88.7 21.9
蒸風呂 蒸風呂2号(穂高有明7578-3) 単純硫黄泉(アルカリ性低張性高温泉) 92.1 21.2
湯原の湯1 妙見の湯(合戦沢上流100m、妙見岩下) 94.8 14
湯原の湯2
湯原の湯3 古事記の湯(駐車場そば堰堤) 74.7 220
湯原の湯4 薬師の湯1号(中房温泉建物裏) 94.6 32.8
◎ その他
◇温泉大プール
:温泉を利用したプール。詳細は登録有形文化財を参照。
◇焼山
:温泉地の裏山。高温の地熱のため、食材を地面に埋めるとすぐに蒸し上がる
:亜熱帯植物であるが、地熱により当地でも生育している。
◇吉田絃二郎碑
:安曇野市三郷明盛1687にある。農場を有し、収穫物を中房温泉や直営山小屋で使用している。
● 文化財
◎ 登録有形文化財
中房温泉本館菊など建造物7棟は、2011年(平成23年)7月25日付けで国の登録有形文化財に登録されている。
◇中房温泉本館菊(ほんかん きく)
:明治時代中期の建築。桁行13メートル、梁間5.4メートルの木造2階建て。屋根は切妻造、鉄板葺。浴場(平屋)を西側に付設。「近代の湯治場建築の好例」(引用)と評価されている。現在は宿泊利用していない。
◇中房温泉旧湯会所(きゅうゆかいしょ)
:明治時代前期の建築。桁行・梁間ともに6.4メートルの木造2階建て。屋根は切妻造、石置板葺・鉄板葺併用。本館菊(前述)の西側に配置されている。御座の湯はここにある。
◇中房温泉板倉(いたくら)
:幕末の建築。桁行6.1メートル、梁間4.6メートルの木造平屋建て。屋根は切妻造、鉄板葺。本館菊(前述)の東側に配置されている。屋内は東西で2部屋に分けている。
◇中房温泉土蔵(どぞう)
:江戸時代、嘉永7年(1854年)の建築。明治時代に移築され、本館菊の東南に配置されている。桁行4.6メートル、梁間3.0メートルの木造2階建て。屋根は切妻造、鉄板葺。山村で多く見られる様式。
◇中房温泉温泉大プール
:1923年(大正12年)の建築。長さ17メートル、幅8.7メートル、深さ1.2メートル。温泉地から見て西南に位置し、温泉水を湛える。「近代的な温泉場の先駆けをなす」(引用)ものとして評価されている。6月から10月中旬の期間内歩行浴利用できる。
◇中房温泉田村薬師堂(たむらやくしどう)
:江戸時代、嘉永元年(1848年)の建築。正面1間、側・背面2間、屋根は宝形造、鉄板葺。温泉地から見て西に位置し、内部に安置された本尊は坂上田村麻呂が奉納したものといわれ、温泉の起源を伝えるものとされる。1975年(昭和50年)に改修されている。
◇中房温泉山の神の社(やまのかみのやしろ)
:幕末の建築。一間社流造で、屋根はこけら葺。田村薬師堂の西に配置され、巨石の上に小さな祠が置かれている。小規模ながら丁寧な仕上がりの神社建築であると評価されている。
◎ 天然記念物
中房温泉の膠状珪酸(こうじょうけいさん)および珪華(けいか)は、1928年(昭和3年)10月4日付けで国の天然記念物に指定されている。
◇膠状珪酸。
◇自家用自動車
:長野自動車道・安曇野インターチェンジから自動車で1時間。
・ 1882年(明治15年) - 菊池純識
・ 1885年(明治18年) - 浅井洌
・ 1912年(大正元年)8月 - ウォルター・ウェストン夫妻
・ 1918年(大正7年) - 永田鉄山、大町桂月
・ 1920年(大正9年) - 朝香宮、澤柳政太郎、小杉放庵(未醒)
・ 1921年(大正10年) - 阿部次郎
・ 1922年(大正11年) - 賀川豊彦
・ 1923年(大正12年) - 秩父宮雍仁親王
・ 1930年(昭和5年)8月 - 北白川宮、朝香宮兄弟
・ 1958年(昭和33年) - 務台理作
・ 1962年(昭和37年) - 中河与一
・ 1963年(昭和38年) - 若山喜志子(若山牧水の妻)
・ 1972年(昭和47年)8月 - 皇太子徳仁親王(浩宮)
● 有明・穂高温泉との関係と国民保養温泉地登録について
中房温泉では、「中房温泉」の名称を商標登録し、中房温泉に便乗した広告・宣伝活動がなされないよう目を光らせている。こうした不適切な表示は顧客の混乱を招くものであるとして、時に訴訟へと発展。2006年(平成18年)3月、それまで安曇野市は「中房温泉郷」と銘打って観光PRを行っていたが、中房温泉からの訴えにより、「中房温泉郷」の使用を取りやめることで和解した。環境省の国民保養温泉地登録に関しても、かつて「中房・穂高温泉」 とされていたものが、2016年(平成28年)5月20日現在は「有明・穂高温泉」 へと変更されている。中房温泉はそもそもの経緯として「旧穂高町の申請で長野県と環境省に申請され許可された」(引用)ものとした上で、「中房温泉は国民保養温泉地に認定されていません」(引用)と明言している。
「中房温泉」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/)
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