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トリカブト(鳥兜・草鳥頭、学名:)は、キンポウゲ科トリカブト属の総称である。有毒植物の一種として知られる。スミレと同じ「菫」と漢字で表記することもある。ニリンソウ、ゲンノショウコ、ヨモギ、モミジガサなどと外見が似ているため誤食事故に注意を要する。
● 概要
ドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされ、トリカブトの仲間は日本には約30種が自生している。沢筋などの比較的湿気の多い場所を好む。トリカブトの名の由来は、花が古来の衣装である鳥兜・烏帽子に似ているからとも、鶏の鶏冠(とさか)に似ているからとも言われる。英名の "monkshood" は「僧侶のフード(かぶりもの)」の意味。
多くは多年草である。草丈は80 -120センチメートルほどある。葉は深く3裂から5裂して、夏から秋に紫色のほか、白、黄色、ピンク色などの花を咲かせる。茎葉を傷つけても、特別な臭いや汁液が出るわけではない。
塊根を乾燥させたものは漢方薬や毒として用いられ、烏頭(うず)または附子(生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれる。本来、「附子」は球根の周りに付いている「子ども」の部分。中央部の「親」の部分は「烏頭(うず)」、子球のないものを「天雄(てんゆう)」と呼んでいたが、現在は附子以外のことばはほとんど用いられていない。俗に不美人のことを「ブス」というが、これはトリカブトの中毒で神経に障害が起き、顔の表情がおかしくなったのを指すという説もある。
● 毒性
全草、特に根に致死性の高い猛毒を持つことで知られる。主な毒成分はジテルペン系アルカロイドのアコニチンで、他にメサコニチン、アコニン、ヒパコニチン、低毒性成分のアチシンのほか、ソンゴリンなどを全草、特に根に含む。採集時期および地域によって、毒の強さが異なることがある。
誤食すると嘔吐、呼吸困難、臓器不全、痙攣などによる中毒症状を起こし、心室細動ないし心停止で死に至ることもある。毒は即効性があり、摂取量によっては経口後数十秒で死亡することもある。半数致死量は0.2gから1g。経皮吸収および経粘膜吸収されるため、口に含んだり、素手で触っただけでも中毒に至ることがある。蜜や花粉にも毒性があるため、養蜂家はトリカブトが自生している地域では蜂蜜を採集しないか、開花期を避けるようにしている。また、天然蜂蜜による中毒例も報告されている。特異的療法および解毒剤はないが、各地の医療機関で中毒の治療研究が行われている。
芽吹きの頃にはニリンソウ、ゲンノショウコ、ヨモギ、モミジガサなどと外見が似ているため間違えやすく、誤食による中毒事故がしばしば報道されている。
株によって葉の切れ込み具合が異なる(参考画像参照)。
◎ 利用
古来、矢毒として塗布するなどの方法で、狩猟・武器目的で北東アジア・シベリア文化圏を中心に利用されてきた。北アメリカのエスキモーもトリカブトの毒矢を使用したことが報告されている。
アイヌはトリカブトとその根を「スㇽク」と呼び、アマッポに使用した。
● 医療用
強毒を持つものの、漢方やアーユルヴェーダなどの伝統医療で薬として使用される。
◎ 漢方薬
漢方ではトリカブト属の塊根を附子(ぶし)と称して薬用にする。本来は、塊根の子根(しこん)を附子と称するほか、「親」の部分は烏頭(うず)、また、子根の付かない単体の塊根を天雄(てんゆう)と称し、それぞれ運用法が違う。強心作用や鎮痛作用があるほか、牛車腎気丸及び桂枝加朮附湯では皮膚温上昇作用、末梢血管拡張作用により血液循環の改善に有効である。
○ 附子が配合されている漢方方剤の例
・ 葛根加朮附湯
・ 桂枝加朮附湯
・ 桂枝加苓朮附湯
・ 桂芍知母湯
・ 芍薬甘草附子
・ 麻黄附子細辛湯
・ 真武湯
・ 八味地黄丸
・ 牛車腎気丸
・ 四逆湯
◎ 新型コロナウイルスの治療薬として
2021年4月16日、キルギス政府のアリムカディル・ベイシェナリエフ保険大臣は、トリカブトの塊根からの抽出物に新型コロナウイルス感染症への治療効果があると発表した。既に何百人かの患者に同意の元で処方されたとしており、記者会見の場で同じものを飲んで安全性をアピールした。
● 主な種
YListおよび門田裕一 (2016)「キンポウゲ科トリカブト属」『改訂新版 日本の野生植物2』による。
◇レイジンソウ亜属 subgen.
・ コンブレイジンソウ Kadota
・ ニセコレイジンソウ Kadota
・ マシケレイジンソウ Kadota et Umezawa
・ オシマレイジンソウ Kadota
・ カムイレイジンソウ Kadota
・ エゾレイジンソウ H.Lév. et Vaniot
・ オオレイジンソウ Kadota
・ ソウヤレイジンソウ Kadota
・ ヒダカレイジンソウ Miyabe
・ レイジンソウ Rapaics
・ アズマレイジンソウ Koidz.
・ シロウマレイジンソウ Koidz. var. (Nakai) Kadota
◇トリカブト亜属 subgen.
・ ダイセツトリカブト Tamura et Namba
・ エゾノホソバトリカブト Takeda var.
・ ヒダカトリカブト Takeda var. (Nakai) Kadota
・ サンヨウブシ Nakai
・ ジョウシュウトリカブト Nakai ex H.Hara
・ ガッサントリカブト Kadota et Shin'ei Kato
・ イイデトリカブト Kadota, Y.Kita et K.Ueda
・ キヨミトリカブト Kadota
・ アズミトリカブト Kadota et Hashido
・ ハナカズラ DC.
・ シコタントリカブト Pall. ex DC. subsp. (Takeda) Kadota
・ カラフトブシ F.Schmidt subsp.
・ リシリブシ F.Schmidt var. Miyabe et Tatew.
・ エゾトリカブト F.Schmidt subsp. (Nakai) Kadota - アイヌが矢毒に用いた。
・ セイヤブシ Miyabe et Tatew.
・ カワチブシ (Nakai) Nakai
・ コウライブシ Kom. subsp.
・ センウズモドキ Kom. subsp. (Nakai) Kadota
・ ウゼントリカブト Nakai
・ ワガトリカブト Nakai var. Kadota
・ オンタケブシ Nakai
・ ヤマトリカブト Thunb. subsp.
・ オクトリカブト Thunb. subsp. (Nakai) Kadota
・ ツクバトリカブト Thunb. subsp. (Nakai ex Tamura et Namba) Kadota var.
・ イヤリトリカブト Thunb. subsp. (Nakai ex Tamura et Namba) Kadota var. Kadota
・ イブキトリカブト Thunb. subsp. (Nakai) Kadota
・ タンナトリカブト Thunb. subsp. (H.Lév. et Vaniot) Kadota
・ ヤサカブシ Nakai
・ タカネトリカブト H.Lév. et Vaniot subsp.
・ ナンタイブシ H.Lév. et Vaniot subsp. (Nakai) Kadota
・ ハクバブシ H.Lév. et Vaniot subsp. (Nakai) Kadota
・ リョウハクトリカブト H.Lév. et Vaniot subsp. Kadota
・ ホソバトリカブト Nakai subsp. var.
・ オオサワトリカブト Nakai subsp. var. (Nakai) Kadota
・ ヤチトリカブト Nakai subsp. (Nakai) Kadota
・ キタダケトリカブト Nakai
・ ミヤマトリカブト Nakai subsp. var.
・ ハクサントリカブト × Nakai
・ ミョウコウトリカブト Nakai subsp. var. (Nakai) Kadota
・ キタザワブシ Nakai subsp. (Nakai) Kadota
・ ハナトリカブト Siebold ex Paxton
・ セイヨウトリカブト(アコニット) L. タイプ種
なお、日本においては2018年以降、次の種が新種記載されている。
・ ワジマブシ Kadota
・ サンチュウトリカブト Kadota
北半球の寒帯から暖温帯に300種以上が分布し、日華植物区系区に多くの種がみられる。
◎ 観賞用のトリカブト
ハナトリカブトは観賞用として栽培され、切花の状態で販売されている。しかし、その全草に毒性の強いメサコニチンが含まれて取り扱いには危険が伴うことから、子供やペットが触ったり口に入れたりするなどによる事故が起こらないよう、注意が必要になる。
● 参考画像
● 附子・トリカブトが出てくる作品
致死性の強毒を持つことから、創作では定番のアイテムである。
・ 『東海道四谷怪談』 - お岩が飲まされた毒は附子であるとされている。同じ場面では、植物採集を受け取った教師が捨てろと命じ、採取が禁じられている希少種であることも伝えている。
「トリカブト」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/)
2024年3月30日0時(日本時間)現在での最新版を取得
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