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犯罪(はんざい)とは、刑罰法規に規定される「構成要件に該当する、違法で有責な行為」のことである。
なお、犯罪行為を行った者は犯罪者(犯人)と呼ばれる。近代法以前は咎人(とがにん)などと呼ばれていた。
● 概説
何を犯罪と判断しこれをいかに処罰するか、ということに関し、法執行者の専断(もっぱら法執行者の心に浮かんで、各法執行者が勝手に判断したこと)にゆだねる、とする考え方が古代や中世などではしばしば採用されていた。これを罪刑専断主義という。これに対し、近代では、何が犯罪であるか各犯罪に対してどのような刑罰を与えるべきかを、あらかじめ法律によって明確に定めておかなければならない、という基本原則が採用されるようになった。これを罪刑法定主義と言う。その成立の歴史としては一般に1215年のイギリスにおけるマグナ・カルタ(第39条)に由来するものとされており、その後の権利請願(1628年)や権利章典(1689年)によって近代市民法の原理として確立した。現在では多くの国でこの罪刑法定主義が原則とされており刑法など法典に犯罪として規定されていない行為については犯罪とされない。日本でも明治時代、フランスのナポレオンの主導で制定された(ナポレオン法典も参照)を手本として作成された1880年の旧刑法の第2条において「法律ニ正条ナキ者ハ何等(なんら)ノ所為ト雖(いえど)モ之(これ)ヲ罰スルコトヲ得ス」と明記され、罪刑法定主義を採用することが明言され、明治憲法の第23条でも罪刑法定主義の原則を採用することが書かれ、こうして日本でも定着し現在に至っている。
● 犯罪論の体系と犯罪の定義
犯罪の成立要件をどのように構成(体系化)するかを犯罪論体系の問題と呼ぶ。この体系化によって犯罪の定義が行われる。
刑法学における犯罪は、ドイツの刑法理論を継受する国(日本など)においては、犯罪の成立要件を構成要件、違法、有責の三つの要素に体系化し、犯罪を「構成要件に該当し違法かつ有責な行為」と定義することが多い。しかし、他の体系を用いて犯罪を定義する刑法学者もある(例:構成要件該当で違法、そして故意の行為(過失は例外で認める)、「有責」は、「行為者」について問う)。
◎ 構成要件該当性
○ 行為論
行為でないものはおよそ犯罪たり得ないのであり、行為性は犯罪であるための第一の要件であるとも言える。行為性を構成要件該当性の前提となる要件として把握する見解もある。行為の意味についてはさまざまな見解が対立している(行為論)。行為でないものとしてコンセンサスのある例としては、人の身分(犯罪の実行者と身分関係があること-連座・縁座など)や心理状態(一定の思想など)などがある(歴史的にはこれらが犯罪とされてきたことがある。)。犯罪が行為でなければならないということは、これらのものはおよそ犯罪たり得ないことを意味する。なお、行為とは作為だけでなく不作為を含む概念である。
ドイツの刑法学者エルスント・ベーリングなどは、犯罪の成立要件として行為、構成要件、違法、有責の4要素を挙げている。しかし、ドイツや日本の多くの学説では行為論は構成要件該当性に取り込んで論じられることが多い。
○ 構成要件論
ドイツの刑法学者・マックス・エルンスト・マイヤーをはじめとするドイツや日本での通説は、犯罪の成立要件として構成要件、違法、有責の3要素を挙げ、構成要件を犯罪の第一の成立要件とする。
犯罪の成立に関しては、罪刑法定主義の観点から、まず、構成要件該当性が判断される。問責対象となる事実については構成要件該当性(充足性とも)が必要である。構成要件とは、刑法各論や特別刑法に個別の犯罪ごとに規定された行為類型である。端的に言えば、犯罪のパターンとして規定されている内容に行為が合致するかどうか、が構成要件該当性の問題である。構成要件要素としては、行為(行為を構成要件とは別の犯罪成立要件とみる説では除かれる)、行為の主体、行為の客体、行為の状況などが挙げられる。各犯罪類型の構成要件はそれぞれ固有の行為、結果、因果関係、行為主体、状況、心理状態などのメルクマール(構成要件要素)を備えており、問責対象となる事実がこれらの全てに該当して初めて構成要件該当性が肯定されるのである。なお、構成要件には基本的構成要件(直接の処罰規定があるもの)と修正された構成要件(未遂犯や共犯など)があるとされる。
行為の主体は自然人でなければならないとされ、刑法上は法人は犯罪の主体とならないとするのが日本では通説である。ただし、特別法の規定により処罰の対象とすることはできる「両罰規定」も参照)。なお、ヒト以外の生物も犯罪の主体たりえない(歴史的にはなり得るとする法制もあった)。
なお、ドイツの刑法学者・メッガーのように犯罪の成立要件に行為、違法、有責の3要素を挙げ、構成要件の要素を違法性に取り込んで考える説もある。
◎ 違法性
構成要件該当性の判断に続いて違法性の判断が行われる。通説によれば、構成要件は違法・有責な行為の類型ということになるから、構成要件該当性が認められたこの段階では、違法性阻却事由のみが問題となる。たとえ、構成要件に該当するとしても、違法でない行為は有害でなく、禁止されず、したがって犯罪を構成しないのである。いうなれば、構成要件という犯罪のパターンに該当する場合であっても、悪くない(違法とされない)場合には、犯罪を構成しない、ということを意味する。違法性阻却事由には、例えば「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」(刑法36条)とする正当防衛の規定がある。なお、明文のない違法性阻却事由も認められる(超法規的違法性阻却事由)。
違法性の本質は、倫理規範への違背であるとされたり(規範違反説)、法益侵害・危殆化とされたりする(法益侵害説)。両者を折衷する見解が多数であるが、法益侵害のみを本質とする見解も有力である。この対立は、違法性の判断の基準時(行為時判断か事後的判断か)の問題と絡んで、学説は深刻に対立している(いわゆる行為無価値論と結果無価値論の対立である。通常は、規範違反説=行為時判断=行為無価値論、法益侵害説=事後的判断=結果無価値論として理解されている)。
◎ 有責性
違法性の判断ののち責任の判断が行われる。たとえ、構成要件に該当し違法な行為であっても、それが自由(行為者の自発的)な意思による場合に初めて非難が可能となるのであり、したがって他の行為を採ることを規範的に期待しえない場合には非難が出来ず、これを治療や教育の対象とすることは別段、処罰の対象とすることは相当でないからとされる(道義的責任論)。この部分は前2段の判定により、犯罪のパターンに該当し違法な行為であると認められた場合に、その責任を当該犯人に問うことが妥当かどうか、という点を問題とするものである。
例えば、違法性阻却事由該当事実を誤想した場合には故意責任は問えないとされる(厳格責任説を除く)。また、行為者が刑事未成年者であったり重度の精神障害を患ったりしている場合には、その者の行為は処罰の対象とならない。明文のない責任要素ないし責任阻却事由も認められる。
精神障害者が犯罪を行い、心神喪失が認められて処罰の対象とならない場合の処遇は、保安処分を、同じく心神喪失が認められて重大な犯罪(殺人、重大な傷害、強盗、強姦、放火)の場合で処罰の対象とならないときの処遇はそれにあわせて心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律を参照。
なお、客観的処罰条件や一身的処罰阻却事由といった処罰条件という概念があるが、これらは犯罪の成立を前提に処罰が可能かどうかという問題に過ぎないとされる。もっとも、これらを構成要件要素に組み込む見解も有力である。親告罪における告訴などは刑事手続上の訴訟条件であって、刑事実体法の問題としては扱われていない。
● 犯罪の分類
◎ 刑法学上の分類
・ 結果発生と構成要件の関係による分類
・ 結果犯:構成要件要素として一定の結果発生を必要とする犯罪
・ 挙動犯:構成要件要素として結果発生を必要とせず、行為者の一定の外部的な身体の動静があれば成立する犯罪
・ 結果的加重犯:基本となる構成要件(基本犯)が満たされた後に、さらに一定の結果が発生した場合に成立する犯罪
・ 保護法益の侵害の態様による分類
・ 実質犯:法益侵害または法益侵害の危険の発生を必要とする犯罪
・ 侵害犯:一定の具体的な法益侵害を必要とする犯罪
・ 危険犯:法益侵害の危険の発生により成立する犯罪
・ 具体的危険犯:法益侵害の具体的危険(現実的な法益侵害の危険)の発生を必要とする犯罪
・ 抽象的危険犯:法益侵害の抽象的危険(社会通念上の一般的な法益侵害の危険)の発生により成立する犯罪
・ 形式犯:法益侵害の危険の発生も必要としない犯罪
・ 法益侵害と犯罪事実の関係による分類
・即成犯:即成犯とは、法益侵害・危殆化によって構成要件該当事実が完成し、かつ同時に終了するものをいう。
・例としては殺人・傷害や器物損壊が挙げられる。殺したり壊したりすればそれ以上法益侵害が継続するわけではないからである。
・ 状態犯:法益侵害・危殆化によって構成要件該当事実が完成するが、その後も法益侵害・危殆化状況が継続する犯罪をいう。
・例としては、窃盗・横領・詐欺が挙げられる。ここでは、犯罪終了後の法益侵害状況の継続は、犯罪事実にあたらない。
・ 継続犯:継続犯とは、法益侵害・危殆化状況の継続が要件となっている犯罪をいう。
・例としては監禁罪が挙げられる。
・>継続犯と状態犯の区別について
ともに、法益侵害・危殆化状況=結果が継続していることは同じである。しかし、結果発生が構成要件の内容として要求されていることは同じでも、発生した法益侵害・危殆化状況の継続が要件となっていない点で区別される。
つまり、結果=法益侵害・危殆化状況の継続が構成要件要素となっているかどうかが異なる。
・ 主観的違法要素による分類
・ 目的犯
・ 傾向犯
・ 表現犯
:ただし、主観的違法要素については反対説もある。
◎ その他の分類
・ 主体による分類
・ 少年犯罪、女性犯罪(女子犯罪)、外国人犯罪、組織犯罪、企業犯罪、精神障害者犯罪、常習者犯罪
・ 客体及び行為態様による分類
・ 高齢者虐待、児童虐待
・ 行為者の心理による分類
・ 愉快犯、模倣犯、確信犯、過失犯
・ 状況、手段、社会的背景による分類
・ 郊外型犯罪、都市型犯罪、交通犯罪、サイバー犯罪、企業犯罪
● 犯罪の発展段階
実行の着手
(2)未遂犯
犯罪の実行の着手があったが犯罪が完成したとみられる段階に達しなかった場合。完成しなかった理由が行為者の意思による場合は中止犯と言われる。
既遂時期
(3)既遂犯
各犯罪において構成要件をすべて充足して犯罪が完成したとみられる段階(既遂時期)に達した場合には既遂犯となる。
● 犯罪に関する学問
罪刑法定主義が採用されている国においては、何が犯罪とされるかについて刑法などの法典に明示されている。法解釈学のひとつとも位置づけられる刑法学が発展してきた。
また、犯罪の本質をマクロ的な視点で捉える学問として、社会経済状況、価値観、文化といった観点で捉える社会学や社会心理学があり、
犯罪者に対する取り扱いや政策の問題を取り扱った刑事政策学がある。
「犯罪」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/)
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