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低炭水化物ダイエット(ていたんすいかぶつダイエット、low-carbohydrate diet, Low-Carb Diet, Carbohydrate-Restricted Diet)とは、肥満や糖尿病の治療を目的として炭水化物の摂取比率や摂取量を制限する食事療法の一種である。「低糖質食」「糖質制限食」、「炭水化物制限食」「ローカーボ・ダイエット」とも呼ばれる。炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を減らす代わりに、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物を積極的に食べる食事法である。 ロバート・アトキンス(Robert Atkin)が提唱したアトキンス・ダイエット(The Atkins Diet)のように、炭水化物の摂取を厳しく制限する食事法や、摂取制限を緩くする食事法もあり、摂取量については個人差がある。なお、アトキンスは「炭水化物の1日の摂取量を20g以内に抑えること」としている。

● アトキンス・ダイエット
1972年、ロバート・アトキンスは『Dr. Atkins' Diet Revolution』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版した。アトキンスはこの本の中で、「肥満を惹き起こすのは炭水化物であり、これを制限する代わりに、肉、魚、卵、ステーキ、バターのような、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物は自由に食べてかまわない。炭水化物が多いものは可能な限り避けなさい」と推奨している。この食事法の基本的な要点は以下の3つである。 インスリンスパイクを抑制すること 生理的ケトーシス(ケトン体濃度の持続的な増加)を誘導すること ブドウ糖による糖化を抑制すること

◎ 論争
アメリカ医師会(The American Medical Association)は、1972年にアトキンスが著書で推奨した手法について、「飽和脂肪酸やコレステロールの多い食品を無制限に摂取することを推奨するひどい療法」と非難し、アトキンスがアメリカ合衆国議会で証言するまでに至った。肥満や病気の原因は「食事に含まれる脂肪分にある」と考えられていたため、主流の栄養学者はアトキンスの理論には触れなかった。 2000年2月24日、アメリカ合衆国農務省は『Great Nutrition Debate』と呼ばれる討論会を主催し、アトキンスとバリー・スィアース(Barry Sears)を識者として招いた。 アトキンスもスィアースも、炭水化物の危険性を訴える点で共通していた。この討論会では、アトキンスに対する批判が集中し、アトキンスはその批判に答える形で登壇に立った。

● 学協会の勧告
アメリカ糖尿病協会(The American Diabetes Association)が2013年に発表した声明では、過体重の患者の体重減少の方法のひとつとして、2年までの短期間に炭水化物の摂取比率は「全エネルギーの40%未満」とする穏やかな低炭水化物食が推奨されたが、腎機能、脂質の特徴、タンパク質摂取量の監視と、適切な低血糖治療が必要であるとされた。2014年にアメリカ糖尿病協会が発表した勧告(糖尿病患者の栄養摂取に関する勧告)では、「血糖値の制御には炭水化物計算法が重要ではあるが、カロリー源としての炭水化物・タンパク質・脂肪の最適なバランスは存在せず、個人個人の食生活や好みに合わせるべき」とされた(低脂肪食、カロリー制限食、地中海食も選択肢の1つに挙げている)。 2019年、アメリカ糖尿病協会が発表した栄養療法の総意報告では、「糖尿病患者の全炭水化物摂取量を減らすことは、血糖を改善するための最も多くの証拠を示しており、低炭水化物または超低炭水化物の食事プランで炭水化物摂取量を減らすことが現実的」とされた。 日本における糖尿病治療では、減量を目的とした短期間(2年間)の緩やかな糖質制限食(糖質130g/日以上)を導入することが2012年に提案されたことがある。しかし、『糖尿病診療ガイドライン2016』では、患者1人1人の病態ごとに適切な栄養素比率があり、多くの制約事項がある、とされる。 日本糖尿病学会はこの食事法を認めていない。また、糖質制限食の流行を受けて、日本人の肥満の是正と糖尿病予防に関しては「運動療法とともに積極的な食事療法」と「総エネルギー摂取量の制限」(「カロリー制限)がもっとも重要であり、カロリー制限なしの炭水化物摂取制限は長期的な食事療法としての科学的根拠が不足しているため現時点では推奨できない」とまとめた。 は、「1型糖尿病患者には低炭水化物食の有効性を示すエビデンスが不十分であり、推奨できない」、「2型糖尿病には1年未満の短期間に体重減少効果がある場合があるが、長期的な効果やリスクについてはエビデンスが不足しており、低血糖症・頭痛・集中力低下・便秘等の副作用に注意が必要である」とした、「6ヶ月の短期間では低脂肪食と比較して体重が減少しているが、1年後では差が無くなる」と報告され。糖尿病患者対象では、より高い炭水化物量の食事と比較して、脂質およびリポタンパク質に差があった研究と無かった研究があり、多くの研究で体重減少との交絡が生じていると指摘され、研究に偏りが生じている可能性がある。

◎ 短期的な影響
2003年、低脂肪食と低糖質食をランダムに割り振った無作為化比較試験では、最初の6ヶ月間は低炭水化物のほうが体重が減少したが、1年後の状態では有意な差は見られなかった。2004年の研究では、6ヶ月の短期間に限り、体重が減少しているうちは、低糖質食を患者にすすめても安全だろうと提言されている。 ただし6ヶ月以内であっても、低炭水化物ダイエットでは便秘や頭痛が経験されることが多い、ある6ヶ月の実験で51%以上)。6ヶ月間の比較で、低脂肪食のダイエットと比較して低炭水化物ダイエットは口臭、筋痙攣、下痢、脱力感、発疹がより頻繁に見られた。糖尿病患者が対象の2年間の比較では、「低炭水化物ダイエットと高炭水化物ダイエットとで、体重減少、HbA1cに有意差は無かった」との報告もある。 4週間の実験では、低炭水化物ダイエットは低脂肪ダイエットや低GIダイエットと比べて、血清中に増えるタンパク質CRP値と尿中コルチゾールの濃度が上昇し、心血管疾患の危険が高まったという、「炭水化物よりも脂肪から多くカロリーを摂取する、とアンケートに答えた人は乳がんのリスクが高い」と報告された。

◎ 長期的な影響
低糖質食が死亡率、心血管疾患にどう影響するかを調べた2012年発表の展望研究によれば、「低糖質食は総死亡率を増加させる」と示された。 62,582人の男女で最大17.8年追跡し、発がん率との関係を調査したスウェーデンでの研究は、動物性たんぱく質の摂取は気道がん、飽和脂肪酸の摂取は結腸直腸がんの発症と関連していた。なお、この研究では食事の質問票に対する被験者の回答が論拠となっている。 2018年のコホート研究の展望研究によると、炭水化物の摂取エネルギーが40%未満または70%以上の場合、いずれも死亡リスクは上昇を示した
 最小死亡リスク  50-60%  8年  韓国42,192人  コホート  Kwon et al. (2020)

 最小死亡リスク  40-70%  7.4-29年  8つのコホート  メタ解析  Seidelmann et al. (2018)
なお、サラ・B・サイドルマン(Sara B. Seidelmann)らによる論文『Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis』。 アンジェラ・A・スタントン(Angela A. Stanton)は、「1558kcalの食事において、37%の炭水化物は144gに相当する。アメリカ政府が推奨する炭水化物の1日あたりの摂取許容量は130gであり、これはこの研究で定義されている『低炭水化物ダイエット』よりも少ない。1655kcalは『飢餓食』(A Starvation Diet)と見なされており 、参加者が25年以上に亘ってこの食事を続けるのは不可能である。また、記憶を頼りとする情報収集は思い違いだらけであり、因果関係を明確にするためにこれを使うなどありえない」と批判している。 サイエンス・ジャーナリストのニーナ・タイショーツ(Nina Teicholz)は、「サラ・サイドルマンと同僚らによるこの論文には複数の問題点がある。第一に、食事についての情報は2つの実例のみに基づいており、食事内容の質が不十分である。彼らが使った食物頻度についての調査は制約を受けない形で検証されているようには見えず、質問事項は66個のみであり、ピッツァのような人気の高い食べ物の存在を無視している。1日あたりの摂取エネルギーは平均でおよそ1500kcalとの報告が示しているとおり、食べ物は明らかに過少申告されている」「第二に、この結果は、要するに、炭水化物を制限することで2型糖尿病を逆転させ、大部分の心血管危険因子を好転できること、ならびに、『炭水化物を制限する食事が、体重減少を目標とした他の食事と同等か、あるいはそれ以上に優れている』と結論付けた、数多くある厳格な無作為化比較臨床試験とは異なる。著者らは、このような健康の好転が最終的に寿命を縮める仕組みについてを説明せねばならない」「第三に、サイドルマンらが『最も好ましい』と判断した、『適度な』糖質食(摂取カロリーの50 - 55%)については、実を言うと、5万人以上の人間を対象とした臨床試験(※1993年から2001年にかけて、アメリカ国立衛生研究所(The National Institutes of Health)が実施した『The Women's Health Initiative 』〈『女性の健康構想』〉を指す。被験者の女性たちは、炭水化物の摂取を増やし、脂肪の摂取を減らし、「食べる量を減らして運動量を増やす」を8年間続けたところ、女性たちの腰周りは膨らんだ。さらに、研究の担当者は「炭水化物が多く、脂肪が少ない食事は癌を防げなかった」と報告した。 また、論文『Low carbohydrate diet and all cause and cause-specific mortality』における炭水化物の摂取量について、摂取エネルギーが最も低い群(1715kcal)での炭水化物の摂取割合は「65.2%」、摂取エネルギーが最も高い群(2440.6kcal)での炭水化物の摂取割合は「42.8%」となっている。炭水化物の摂取量については、前者は「約280g」、後者は「約261g」となっており、食事の内容については「食物頻度調査票」(Food Frequency Questionnaire)に基づいていた。2007年、スウェーデンにおける4万2237人の女性での12年間におよぶコホート研究では、低炭水化物で高タンパク食は総死亡率が高くなり、特に心血管における死亡率が増加していた。
・ 2010年、ハーヴァード大学による4万4548人の男性と8万5168人の女性による20年から26年間におよぶコホート調査では、動物性食品を基礎とする低糖質食は男女とも全原因の死亡率を増加させ、植物性食品による低糖質食は死亡率を低下させる、と発表した。これも食事の質問票に対する被験者の回答が論拠となっている。
・ 炭水化物を脂質に置き換えた場合、摂取する脂肪の種類(総脂質、飽和脂肪酸(SFAs)、一価不飽和脂肪酸(MUFAs)、多価不飽和脂肪酸(PUFAs)により、全死因死亡率や心血管疾患死亡リスクが異なることが報告された。この報告によれば、総脂質またはSFAsは全死因死亡率が上昇し、MUFAsではリスクは低下した。また、MUFAsは有意な減少であったとされた。

◎ 懸念
この食事法は、炭水化物の摂取量を可能な限り減らし、タンパク質と脂肪の摂取量を増やすものである。6週間の実験では、2011年の報告で、高穀類繊維 (High Cereal-Fiber)の食事よりも高タンパクの食事のほうがインスリン抵抗性を高くし、糖尿病リスクを上げる」と報告された) 世界保健機関が2007年にまとめた報告書では、「高タンパク質食は腎臓疾患患者の腎機能を悪化させるため、糖尿病、高血圧、多嚢胞性腎疾患によって腎不全の可能性がある場合には適切にタンパク質制限が行われるべきであり」、「高タンパク質食では特に動物性タンパク質による腎結石のリスク増加がありうるので、リスクのある患者では安全な量でかつ植物性タンパク質が望ましい」とされた。 なお、「タンパク質の摂取を増やす食事は腎臓に負担をかけ、腎機能を低下させる」という主張を、「根拠が無い」と否定する人物もいる(後述)。

● アトキンス・ダイエットができるまで
アトキンスは1959年にニューヨーク・マンハッタンにあるアッパー・イースト・サイドにて、心臓病および補完代替医療の専門医として開業した。 開業したての頃のアトキンスの仕事はあまりうまくいかず、さらには身体が太り始めたことで、アトキンスは意気消沈していた。ある時、アトキンスは、デラウェア州にある会社、デュポン社(DuPont)に所属していた、アルフレッド・W・ペニントン(Alfred W. Pennington)が研究し、従業員に提供していた食事法を発見した。 1940年代、ペニントンは、過体重か太り過ぎの従業員20人に、「ほぼ肉だけで構成された食事」を処方していた。彼らの1日の摂取カロリーは平均3000kcalであった。この食事を続けた結果、彼らは平均で週に2ポンド(約1㎏)の減量を見せた。この食事を処方された過体重の従業員には、「一食あたりの炭水化物の摂取量は20g以内」と定められ、これを超える量の炭水化物の摂取は許されなかった。デュポン社の産業医療部長、ジョージ・ゲアマン(George Gehrman)は、「食べる量を減らし、カロリーを計算し、もっと運動するようにと言ったが、全くうまくいかなかった」と述べた。ゲアマンは、自身の同僚であるペニントンに助けを求め、ペニントンはこの食事を処方したのであった。アトキンスは、ペニントンが実践していたこの食事法からヒントを得て、患者を診療する際に「炭水化物が多いものを避けるか、その摂取量を可能な限り抑えたうえで、肉、魚、卵、食物繊維が豊富な緑色野菜を積極的に食べる」食事法を奨め、それと並行する形で本を書き始めた。1972年、『Dr. Atkins' Diet Revolution』(邦題:『アトキンス博士のローカーボ(低炭水化物)ダイエット』)を出版し、その数年後に補完代替医療センターを開設した。 2002年、アトキンスは心臓発作を起こして倒れた。これについて、「高脂肪の食事が潜在的にどれほど危険であるかが証明された」という批判を数多く浴びた。しかし、複数のインタビューで、アトキンスは「私が心停止になったのは、以前から慢性的な感染症を患っていたからであって、脂肪の摂取量の増加とは何の関係も無い」と強く反論した。なお、「食事に含まれる脂肪分の摂取と、肥満や各種心疾患とは何の関係も無い」というのは、炭水化物を制限する食事法を奨める人物に共通の見識である。 2003年4月、ニューヨークに大雪が降り、地面は凍結した。4月8日、アトキンスは通勤のため、凍った路上を歩いている途中、足を滑らせて転倒して頭部を強打し(これが直接の致命傷となった)、意識不明の重体となり、集中治療室で手術を受けるも、意識が戻らないまま死亡している。

● アトキンス以前の食事療法


◎ ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン
フランスの法律家で美食家のジャン・アンテルム・ブリア=サヴァラン(Jean Anthelme Brillat-Savarin)は、1825年出版の著書『Physiologie du goût』(『味覚の生理学』)にて、「思ったとおり、肉食動物は決して太ることはない(オオカミ、ジャッカル、猛禽類、カラス)。草食動物においては、動けなくなる年齢になるまで脂肪が増えることは無い。だが、ジャガイモ、穀物、小麦粉を食べ始めた途端、瞬く間に肥え太っていく。・・・肥満の主要な原因の2つ目は、ヒトが日々の主要な食べ物として消費している小麦粉やデンプン質が豊富なものだ。前述のとおり、デンプン質が豊富なものを常食している動物は、いずれも例外なく、強制的に脂肪が蓄積していく。ヒトもまた、この普遍的な法則から逃れられはしない」、「ヒトにおいても、動物においても、脂肪の蓄積はデンプン質と穀物によってのみ起こる、ということは証明済みである」。

◎ ジャン=フランソワ・ダンセル
1844年、フランスの退役軍医、ジャン=フランソワ・ダンセル(Jean-François Dançel)は、フランス科学協会にて、肥満の治療法を発表した。ダンセルによる肥満治療の理論は1864年に英語に翻訳され、その題名は『Obesity, or Excessive Corpulence: The Various Causes and the Rational Means of Cure』(『肥満、あるいは過剰な脂肪蓄積:さまざまな原因と妥当な治療法』)であった。ダンセルは肥満の治療手段について、以下のように書いた。「化学者たちは、バターを食べると身体に脂肪が増えるのかどうかを知るため、実験の数日間、バターのみを鳩に食べさせ、それ以外の食べ物は食べさせなかった。鳩はバターを貪るように食べ続け、実験が終わると、言うまでもないが、鳩は痩せ細った状態で死んでしまった。実験の担当者たちは、『バターは身体を太らせることは無い』と結論付けたのだ。肉食動物にバターだけを食べさせることで検証しようというのだから、なんという突飛な構想であろうか。この実験は私の書いた論文の主題でもあり、1844年の科学協会の議事録にも収録されている」「脂肪ができる原因に関する問題に光を当てることになるかもしれぬ、確定事項を提示しておく。私はこの数年間、肥満は快適な生活を妨害し、どうすれば脂肪を減らせるかについて、多くの考察を重ねてきた」「私は、『肉だけを食べ、それ以外の食べ物の摂取はごく少量のみに抑えれば、ただ一人の例外も無く肥満を治癒できる』という事実を確固たるものとしたのだ。どんな薬を服用しようとも、卓に並んでいるものを見境無く食べている限り、肥満は防げない」「私は数千もの症例を記録に残している。私の教えに従った数多くの患者たちは、体重を減らせたのだ」

◎ ウィリアム・バンティング
ウィリアム・バンティングは、ロンドン生まれの葬儀屋であった。バンティングは、自身が太り過ぎていたことに悩んでいた。その彼に炭水化物の摂取を制限する食事法を奨めたのは、医師であり友人でもあったウィリアム・ハーヴィーであった。ハーヴィーがこの食事法を学んだのは、フランスの医師、クロード・ベルナール(Claude Bernard, 1813-1878) がパリで行った糖尿病についての講演を聴いたのがきっかけであった。1856年、クロード・ベルナールは、パリで糖尿病についての講演を行っていた。当時、ウィリアム・ハーヴィーは、ベルナールによる講演を聴いていた。ベルナールは肝臓の機能について、肝臓がブドウ糖を産生して分泌することや、糖尿病患者の血中ではブドウ糖の濃度が異常に上昇している趣旨を説明した。また、ベルナールは「ブリア=サヴァランの著書を読み、肥満の治療法を発見した」と述べた。この食事法に従ったバンティングは大幅に体重を減らしただけでなく、身体の不調も回復していった 「I can confidently state that quantity of diet may safely be left to the natural appetite
◇ and that it is quality only which is essential to abate and cure corpulence.」(「食べる量については、自然に湧いてくる食欲に従って差し支えない。肥満を和らげ、治療するために必要なのは食べ物の『質』だけである、と、確信をもって明言できる」) との言葉を残している。「Bant」はスウェーデン語にも輸入され、「Att banta」は「to bant」(「食事療法に励む、ダイエットする」)、「Nej, tack, jag bantar」は「No thank you, I am banting.」(「いいえ、結構。今はダイエット中なんだ」)の意味で使われるようになった。 南ローデシア(現在のジンバブエ)出身の科学者ティム・ノークス(Tim Noakes)は、「低糖質・高脂肪ダイエット」と名付け、この食事法を普及させた。ノークスは、「脂肪の摂取を減らし、炭水化物を沢山摂取せよ」と奨める考え方を「Genocide」(「大量虐殺」)と断じている。 サイエンス・ジャーナリスト、ゲアリー・タウブス(Gary Taubes)による著書『Good Calories, Bad Calories』(2007年)では、「A brief history of Banting」(「バンティングについての簡潔な物語」)と題した序章から始まり、バンティングについて論じている。炭水化物の摂取を制限する食事法についての議論の際には、しばしばバンティングの名前が挙がる。なお、バンティングは、この食事法が広まった功績は「(この食事法を教えてくれた)ハーヴィーにある」と主張した。 ウィリアム・バンティングが減量に成功したのは、食べる量を減らしたからでも、運動に励んだからでもなく、「炭水化物を制限したから」である。1886年にベルリンで開催された内科学会にて、食事療法についての討論会が行われた際、肥満患者を確実に減らせる食事療法が3つ紹介され、バンティングが実践していた方法がそのうちの1つとして紹介された。残りの2つはいずれもドイツ人の医師が開発した方法であるが、いずれにも共通するのは
・ 「肉は無制限に食べて構わない」
・ 「デンプン質・糖質は完全に禁止」 というものであった。1957年、精神医学者で小児肥満の研究者でもあったヒルデ・ブルッフ(Hilde Bruch)はこれを紹介したうえで、「食事管理による肥満の抑制における大きな進歩と呼べるのは、身体の中で脂肪を生成するのは肉ではなく、パンや甘く味付けされた食べ物のような、『無害』と思われていたものこそが肥満をもたらす、と認識された点にある」と述べた。1973年には、肥満について「脂肪組織において調節障害が惹き起こされている」とも述べている。1934年にアメリカ合衆国に移住したブルッフは、当時のニューヨークが「肥満体の子供で溢れかえっていた」と記録しており、太っている子供たちはどれだけ食べる量を減らしたところで痩せることは無く、身体は太ったままであった。体重を減らす目的で「食べる量を減らす」を実行したところで、いずれも全て例外なく失敗に終わる。
○ ブレイク・F・ドナルドソンによる肥満治療
ニューヨークで心臓病専門医をやっていたブレイク・F・ドナルドソン(Blake F. Donaldson)は、「肥満体の心臓病患者」に対し、1919年ごろから「ほぼ肉だけで構成された食事」を処方した。1日3回の食事で、1日の摂取カロリーは少なくとも3,000 kcalはあった。ドナルドソンもまた、「食べる量を減らして運動量を増やす」を行っても体重は全く減らないことに気付いていた。
○ 完全肉食生活
ステファンソンは、炭水化物が少ない食事療法に大いに関心を抱いていた。ステファンソンはエスキモーたちの食事について、「全体の90%が肉と魚で構成されている」と記録している。彼らの食事は「Zero Carb」「No Carb」(「炭水化物をほとんど含まない食事」)と見なされるかもしれない(彼らが食べていた魚にはわずかな量のグリコーゲン(Glycogen)が含まれてはいたが、炭水化物の摂取量は全体的にごく僅かであった)。ステファンソンの仲間の探検家たちも、この食事法で完全に健康体であった。イヌイット(ステファンソンの時代には「エスキモー」と呼ばれていた)たちとの暮らしから数年後、ステファンソンは、アメリカ自然史博物館からの要請で、同僚のカーステン・アンダーソン(Karsten Anderson)とともに再び北極を訪れた。2人のもとには「文明化された」食料が1年分補給される予定であったが、2人はこれをやんわりと断った。当初の計画は1年間であったものが、最終的には4年間に延長された。北極圏にいた2人がその4年間で食べていたものは、捕えて殺して得られた動物の肉と魚だけであった。4年に亘る肉食生活を送る過程で、2人の身体には異常も悪影響も見られなかった。ウィリアム・バンティングと同じく、炭水化物のみを制限し、身体が本当に必要としている食べ物を食べ続けた場合、身体は完全に機能し、壮健さと細身を維持できることが明らかとなった。「カロリー」については一切無視された。複数の研究結果により、エスキモーたちの食事法は「ケトン食療法」であることが示された。彼らは主に魚や肉を煮込んで食べており、時には魚を生で食べることもあった。 1928年、ステファンソンとアンダーソンの2人はニューヨークにあるベルヴュー病院(Bellevue Hospital)に入院し、完全肉食生活が体に及ぼす影響についての実験台となった。実験の期間は1年間であり、コーネル大学のウジェーヌ・フロイド・デュボア(Eugene Floyd DuBois)が実験を指揮した。ステファンソンとアンダーソンの2人は、注意深く観察された実験室という設定で、最初の数週間、肉だけを食べ続けても問題無いことを証明する研究の着手に同意し、「食事における決まり事」を確かなものにするために観察者が付いた。スコット・カトリップ(Scott Cutlip)による著書『The Unseen Power: Public Relations』によれば、ペンドルトン・ダッドリー(Pendleton Dudley)がアメリカ食肉協会(American Meat Institute)に対して、この研究に資金を提供してもらえないか、と説得したという。この間にアンダーソンには糖尿病の症状が発現した。糖尿病における病理とは異なり、この研究の過程でアンダーソンの身体に見られた糖尿病の病状の期間は4日間であった。耐性を調べるためにブドウ糖100gを投与させたことと、肺炎の発症はいずれも同時期であった。この時のアンダーソンは、水分と炭水化物が多い食事を取っており、これを排除すると、糖尿病の症状は消滅した。ステファンソンは、研究者から「脂肪が少ない赤身肉だけを食べる」よう依頼された。ステファンソンには脂肪がほとんど無い肉を食べ続けると2-3週間後に健康を損なった経験があり、「脂肪がほとんど無い肉」は「消化不良」を引き起こす可能性がある、と指摘した。この肉を食べ続けて3日目、ステファンソンは吐き気と下痢に見舞われ、そのあとに便秘が10日間続いた。脂肪が多い肉を食べるようにすると、2日以内に身体は完全に回復した。最初の2日間、ステファンソンが取っていた食事は、脂肪の摂取量が三分の一に減っていた点を除けば、エスキモーが取っていた食事に近いものであった。タンパク質の摂取カロリーは全体の45%を占めており、3日目には腸に異常が見え始めた。次の2日間でステファンソンはタンパク質の摂取量を減らし、脂肪の摂取量を増やした。摂取カロリーの約20%をタンパク質で、残りの80%を脂肪で占めるようにした。この2日間での高脂肪食でステファンソンの腸の状態は投薬無しで正常に戻った。その後、ステファンソンはタンパク質の1日の摂取カロリーが25%を超えないようにした。2人の身体は健康を保ち、腸も正常なままであった。彼らの便は小さく、匂いも無かった。ステファンソンには歯肉炎があり、歯石の沈着が増加するも、実験が終わるまでには消えていた。実験中のステファンソンの摂取カロリーは2000~3100kcalで、そのうちの20%はタンパク質であり、残りの80%は動物性脂肪から得ていた。ステファンソンによれば、エスキモーたちは赤身肉(タンパク質)の摂取を制限し、余分な赤身肉は犬に与えて食べさせ、脂肪を確保して食べたという。 1946年、ステファンソンは、エスキモーたちとの食生活について綴った著書『Not by Bread Alone』(『パンのみにあらず』)を出版し、1956年にはこの本の拡張版とも言える内容の著書『The Fat of the Land』(『大地の脂肪』)を出版した。
○ アルフレッド・W・ペニントンによる肥満治療
前述したデュポン社のアルフレッド・W・ペニントンはドナルドソンの講演を聴き、この食事法を自分で試してから、デュポン社の肥満体の従業員に処方し始めた。 カンザス州の医師、ジョージ・L・トープ(George L. Thorpe)は、1957年に開催されたアメリカ医師会の年次総会に出席し、「準飢餓状態を要求する食事(semi-starvation diets)では脂肪が減少するどころか、身体全体で消耗と衰弱が起こり、慢性的な栄養失調が続き、必然的に失敗に終わるであろう」と非難した。ペニントンによる食事法を試したトープは、自分の患者たちにこれを処方し始めた。トープによれば、「少量の野菜を含んでいても、月に6-8ポンドの体重減少が見られた」という。トープは「複数の情報源による証拠に基づき、減量を成功させるにあたって高タンパク・高脂肪・低糖質の食事を採用するのは十分な理由となる」と結論付けた。 前述のレイモンド・グリーンは、1951年に出版した『The Practice of Endocrinology』(『内分泌学の実践』)にて、以下のように記述している。
◇ 避けるべきもの パン、および小麦粉で作ったものすべて シリアル(朝食用と牛乳プリンを含む) ジャガイモと白い根菜類 砂糖を多く含むもの すべての甘いお菓子
◇ 以下の食べ物は食べたいだけ食べてよい 肉・魚・鳥 すべての緑色野菜 卵(乾燥したもの、生のもの) チーズ バナナとブドウを除く、無糖の、あるいはサッカリンで甘くした果物 1958年の時点で痩身目的の食事法が数多く流行していたが、それらの多くは科学的根拠が無いものであった。クイーン・エリザベス大学の栄養学教授、ジョン・ユドキン(John Yudkin)は、「炭水化物を制限すれば体重の制御が可能である」ことを、多くの肥満患者に教示した。1958年、ユドキンは炭水化物を制限する食事法について記述した著書『This Slimming Business』を出版した。1962年には紙表紙本として出版され、1974年には第4版が重刷された。本書はアメリカ合衆国では『Lose Weight, Feel Great』という題名で出版され、オランダ語とハンガリー語にも翻訳された。1961年には『The Slimmer's Cook Book』、1964年には『The Complete Slimmer』を出版した。 リチャード・マッカーネス(Richard Mackarness)は、1958年に出版した著書『Eat Fat and Grow Slim』(『脂肪を食べて細身になろう』)にて、「体重が増える原因は炭水化物の摂取にある」と明言し、「肉、魚、脂肪は食べたいだけ食べてよい」とし、穀物と砂糖を避けるよう主張した。マッカーネスは、ウィリアム・バンティングによる『市民に宛てた、肥満についての書簡』に触発されてこの著書を執筆した。 ヘルマン・ターラー(Herman Taller)は、1961年に出版した著書『Calories Don't Count』(『カロリーは気にするな』)にて「カロリーが同じであれば、どの栄養素も体内で同じ作用を示す、などということはありえない」「炭水化物が少なく脂肪が多い食事は体重を減らす」「炭水化物は身体に問題を惹き起こす」「炭水化物の摂取に敏感な人の体内ではインスリンが分泌され、脂肪が生成される」と述べ、肥満を防ぐために炭水化物を避けるよう主張している。ターラーがこの本を執筆する契機となったのは、アルフレッド・W・ペニントンがデュポン社の従業員に処方した食事法を知ったことにある。

◎ フィクションにおける炭水化物制限食
レフ・トルストイ(Лев Толстой)による小説『アンナ・カレーニナ』にて、アンナの愛人であるアレクスィ・ヴロンスキー伯爵が「身体に脂肪が蓄積するのを防ぐため、牛肉のステーキを食べ、小麦粉およびデンプン質でできた食べ物と甘く味付けされた料理を避けた」との記述がある。トルストイが1875年ごろにこの食事法を淡々と記述していた点について、エモリー学術大学(Emory College of Arts and Sciences)の学部長、ロビン・フォーマン(Robin Forman)は、「ヴロンスキーはアトキンス・ダイエットに似た食事法を実践していた」「19世紀後半のロシアにおいて、炭水化物を避ける食事法がよく知られていたことを示唆している」と書いた。

◎ ケトジェニック・ダイエット
ケトン食を摂取し続けることで、身体は炭水化物ではなくケトン体を常に燃料にする体質となり、肥満や過体重の場合、体重、中性脂肪、血糖値が有意に低下し、心臓病を起こす確率が低下する。低脂肪食と比較して、ケトン食は肥満患者や糖尿病患者の体重を大幅に減らし、血糖値とインスリン感受性を改善させ、代謝機能障害に関係する死亡率も低下させる可能性がある。 ケトン食はミトコンドリアの機能と血糖値を改善し、酸化ストレスを減少させ、糖尿病性心筋症(Diabetic Cardiomyopathy)から身体を保護する作用がある。 また、ケトン食は記憶力の改善と死亡率の低下をもたらし、末梢軸索(Peripheral Axons)と感覚機能障害(Sensory Dysfunction)を回復させ、糖尿病の合併症も防げる可能性が出てくる。

● 炭水化物を制限することによる利点
炭水化物は、脂肪やタンパク質に比べてインスリンの分泌にはるかに大きな影響を及ぼす。インスリンは食事における満腹感を減少させ、摂食行動にも影響を及ぼす。炭水化物の摂取を減らすと、インスリン抵抗性は緩和される。炭水化物を制限する食事は、インスリンの濃度が高い患者に有益である証拠が示された。 炭水化物が少なく、脂肪が多い食事は、空腹感と満腹感に大いに影響を与える。炭水化物が多く、脂肪が少ない食事(カロリー制限食)と比較すると、高脂肪食は体脂肪を減少させ、身体のエネルギー消費量の増加を促進する。 また、炭水化物を制限する食事は、低脂肪食よりも大幅に体重を減らし、心血管疾患の危険因子も減少させる。 炭水化物の少ない食事は、血糖値とその制御の大幅な改善につながり、薬物の服用回数を減らせるだけでなく、服用の必要も無くなる可能性があり、この食事法は2型糖尿病の改善と回復にも効果的である証拠が示された。 ケトン食を含めて、炭水化物を制限する食事法は安全であり、長期に亘って健康を維持し、さまざまな病理学的状態を防止または逆転させる力がある。 ケトン食療法は癌の治療や予防に有効である可能性を示している。癌細胞はケトン体をエネルギー源にはできないため、ケトン食療法を「癌の治療手段として採用すべきだ」と考える研究者もいる。 「炭水化物は肥満およびそれに伴う疾患の主要な推進力であり、精製された炭水化物や糖分の過剰摂取を減らすべきである」と結論付け、炭水化物を「Carbotoxicity」(「炭水化物には毒性がある」)という造語で表現する研究者もいる。

● 食事比較
1956年、アラン・ケクウィック(Alan Kekwick)とガストン・パワン (Gaston Pawan)の2人は、ロンドンにあるミドルセックス病院(The Middlesex Hospital)にて、太り過ぎの患者を以下の3つの食事グループにそれぞれ割り当て、身体がどのような変化を示すのかを確かめる実験を行った。 摂取カロリーの90%を炭水化物から摂る 摂取カロリーの90%をタンパク質から摂る 摂取カロリーの90%を脂肪から摂る 1日の摂取カロリーは、3つとも「1000kcal」に揃えた。それぞれの食事に割り当てられた被験者の体重は以下のように変動した。 の食事を摂ったグループ・・・体重が1日に0.24ポンド(約0.1kg)増加した の食事を摂ったグループ・・・体重が1日に0.6ポンド(約0.28kg)減少した の食事を摂ったグループ・・・体重が1日に0.9ポンド(約0.41kg)減少した 炭水化物が少なく、脂肪の摂取量が多い食事を摂ったグループが最も大きく体重を減らす結果となった。さらに、1日の摂取カロリーを「2600kcal」に調節した低糖質・高脂肪食を摂らせたところ、体重は大幅に減少した。

● A TO Z 減量研究
2003年2月から2005年10月にかけて、『The A TO Z Weight Loss Study』(『A TO Z 減量研究』)と題した研究が行われた。被験者は肥満体の女性であり、彼女らを以下の4つの食事法に無作為に割り当て、炭水化物が少なく、脂肪が多い食事が、心臓病、糖尿病に関係する危険因子に与える影響について調べたもので、体重、血圧、コレステロール値の変化についても比較した。 The Atkins Diet(アトキンス・ダイエット)・・・炭水化物の1日の摂取量を20g以内、その後は50g以内に抑える。摂取カロリー、タンパク質、脂肪の摂取量は一切制限せず、食べたいだけ食べる LEARN Diet ・・・ いわゆるカロリー制限食。全摂取エネルギーのうちの55~60%を炭水化物から摂り、脂肪の摂取割合は30%以下にし、飽和脂肪酸の摂取割合は10%以下とする。定期的に運動をこなす Ornish Diet ・・・ 脂肪の摂取割合を10%以下とする。瞑想と運動を行う Zone Diet ・・・ 摂取カロリーのうちの40%を炭水化物から、30%をタンパク質から、30%を脂肪から摂取する 1. のアトキンス・ダイエットに割り当てられた被験者たちは、肉や魚を食べたいだけ食べ、それに付随する動物性脂肪を沢山食べるよう指導され、摂取カロリーと脂肪の摂取を減らす食事法に割り当てられた被験者と比較された。その後、アトキンス・ダイエットに割り当てられた被験者たちの身体には、以下の現象が起こったは、肉や脂肪を豊富に含む食事は危険かもしれない、と考えていたが、この研究結果を受けて、「A bitter pill to swallow」(「受け入れがたい現実」)と述べた。

● 過食実験と体格の変化
2013年、イングランド人のサム・フェルサム(Sam Feltham)は、1日に5000kcalを超えるエネルギーを摂取する過食実験を自らの身体で実施した。彼は、「カロリーはカロリーである」(『A calorie is a calorie』)「自分が消費する以上の量のエネルギーを摂取するからヒトは太るのだ」とする理論に対して疑念を抱いていた。 最初の21日間で栄養素の構成比を「脂肪53%(461.42g)、タンパク質37%(333.2g)、炭水化物10%(85.2g)」(「低糖質・高脂肪な食事」)に設定し、1日に「5794kcal」のエネルギーを摂取する生活を21日間続けた。21日後、フェルサムの体重は1.3kg増加したが、腰回りは3cm縮んだ。フェルサムの身体からは脂肪が減り、除脂肪体重が増加し、身体は引き締まった。この高脂肪食で、フェルサムは余剰分のカロリーが56645kcalにも及んだが、全く太りはしなかった。なお、この「炭水化物の摂取を増やし、脂肪の摂取を減らす食事」は、アメリカ糖尿病協会(The American Diabetes Association)やアメリカ心臓協会(The American Heart Association)が推奨している「栄養バランスのとれた食事」であり、栄養学の「権威」が推奨する食事とほとんど変わらないは「素晴らしい」「カロリーとは単なる道具でしかない」と述べている。 もう1つの実験として、フェルサムは「ヴィーガン食」(Vegan Diet, 完全菜食)による過食実験も実施した。ヴィーガン食は基本的に「高糖質・低タンパク・低脂肪」な食事である。1日の摂取エネルギーを「5794kcal」に調節したヴィーガン食で再び21日間過ごした。21日後、フェルサムの体重は4.7kg増加し、腰回りは7.75cm膨らみ、顎の脂肪も膨らみ、体脂肪率は12.9%から15.5%に上昇した。 フェルサムはこれらの過食実験を通して、
・ 「(脂肪が豊富で炭水化物が少ない食事を摂り続けても太らなかったことについて)簡単に言うなら、『食べ物に含まれる脂肪分には、ヒトを太らせる作用は無い』ということである」
・ 「炭水化物の摂取を増やし、脂肪の摂取を減らしたところで、あなたが食べた炭水化物は体内で脂肪に変わる」
・ 「精製された炭水化物を食べ続けていれば、身体に生化学的な損傷が発生し、インスリン抵抗性を初めとする疾患を惹き起こすだろう」
・ 「体重を管理する方法について、『食べる量を減らして運動量を増やせ』としばしば言われるが、これは誰の何の役にも立たない、愚鈍で疎慢な『助言』である」
・ 「精製された炭水化物のような『偽物の食べ物』ではなく、肉や卵のような『本物の食べ物』を食べよう」
・ 「脂肪が豊富な肉・魚・卵・ナッツ類、緑色野菜は食べたいだけ食べて構わない」
・ 「炭水化物を食べ続けている限り、あなたの身体から脂肪は減らない」
・ 「肥満や病気が蔓延しているのは、人々が『食べ過ぎるから』ではなく、『偽物の食べ物を食べるから』だ」
・ 「医療関係者に言いたいのは、患者に対して『偽物の食べ物』を減らし、『本物の食べ物』を食べるよう促すことだ」
・ 「各国の政府は、食事に関する政策を改め、『偽物の食べ物』を排除し、砂糖会社への補助金を停止すべきである」 と述べているは、何の役にも立たないが、炭水化物が少ない食事は肥満患者や糖尿病患者の健康を改善できるだろう」と確信しており、「低脂肪の食事は、長期的に見ても『体重の減少に効果がある』との証明はされておらず、食事のあり方を変えるべきである」との立場を明確にしている。2008年にスウェーデンの保険福祉庁とアメリカ糖尿病協会が「炭水化物を制限する食事法は肥満や糖尿病治療に役立つ可能性がある」という評価をくだすも、ある5人のダイエットの専門家がそれを認めなかった。イーエンフェルトはこれに対して大いに疑問視した。2009年、イーエンフェルトは、スウェーデンの医療雑誌『Dagens Medicin』に、スウェーデン食糧庁による「動物性脂肪を避けるように」との警告には何の根拠も無いこと、国が推奨している現在の食事内容をただちに変えるべきであるという内容の記事を、12人の著者とともに共同で寄稿した。 2011年、イーエンフェルトは著書『Low Carb, High Fat Food Revolution: Advice and Recipes to Improve Your Health and Reduce Your Weight』を出版し、炭水化物を制限する食事法を奨めている。本書は英語で書かれ、スウェーデン本国でベストセラーとなり、8つの言語に翻訳された。
・ イングランドの医師ジョン・ブリッファ(John Briffa)は、著書『Escape the Diet Trap』の中で、 「高糖質・低脂肪な食事に体重を減らす効果は無い」 「カロリー制限食は、体重を減らせないだけでなく、深刻な病気を患いやすくなる」 「体脂肪の蓄積を強力に推進する主要因子となるのはインスリンである」 「インスリン抵抗性は、肥満および2型糖尿病と密接に関係している」 「インスリン抵抗性は、血糖値の乱高下、トライグリセライド(Triglyceride, 中性脂肪値)の上昇で惹き起こされ、体内で発生する炎症作用の原因となり、これらはインスリンの大量分泌を促す食べ物の摂取で惹き起こされる。そのインスリンの大量分泌を惹き起こす食べ物は炭水化物である」 「食事に含まれる脂肪分の摂取と体重の増加には因果関係は無く、『脂肪の摂取を減らせば体重を減らせる』ことを示す証拠は無い」 「84時間に亘って生理食塩水のみの点滴を受け続け、絶食状態にあった被験者と、脂肪分だけを1日2000kcal分供給された被験者の血中の状態は、まったく同じであった」 「炭水化物の摂取を減らし、脂肪の摂取を増やすほど体重も体脂肪も減っていく」 「食べ物に含まれる脂肪分は、インスリンの分泌を全く促さない以上、太る原因にはなり得ない」 「動物性脂肪の摂取と、肥満および心臓病には何の因果関係も無い」 「マーガリンのようなトランス脂肪酸は避けること」 「穀物の栄養価は極めて低い。穀物を動物に食べさせると、本来ならあり得ない速度で脂肪が蓄積していく。このことから、穀物は『食料』ではなく、『飼料』と呼ぶべきである」 「『タンパク質の摂取は腎臓に負担をかける』とする説には何の根拠も無い。体重1kgにつき、2.8gのタンパク質を摂取しても、腎機能に悪影響が出ることを示す証拠は見付からなかった」 「タンパク質は骨の原料でもあり、タンパク質の摂取を増やすことで骨折のリスクは低下する」 「タンパク質の摂取もインスリンの分泌を促すが、同時にグルカゴンの分泌も誘発し、インスリンによる脂肪蓄積作用を緩和する」 「食欲を満足させるのに最も効果的な食事と呼べるものは、タンパク質と脂肪が豊富で炭水化物が極めて少ない食事である」 「有酸素運動に体重を減らす効果は無い」 と述べている。

● 炭水化物と脂肪、それぞれの摂取と影響
5大陸、18ヶ国に住む135335人を対象に行われた大規模な疫学コホート研究の結果が『The Lancet』にて発表された(2017年)。これは炭水化物の摂取量および脂肪の摂取量と、心血管疾患に罹るリスクおよびその死亡率との関係についての調査であった。これによると、炭水化物の摂取を増やせば増やすほど死亡率は上昇し、脂肪の摂取を増やせば増やすほど死亡率は低下するという結果が示された。とくに、飽和脂肪酸の摂取量が多ければ多いほど、脳卒中に罹るリスクは低下した。また、飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸を問わず、脂肪の摂取は死亡率を低下させ、心筋梗塞および心血管疾患の発症とは何の関係も無かった。 飽和脂肪酸の摂取は、冠状動脈性心臓病、脳卒中、心血管疾患の発症とは何の関係も無く、飽和脂肪酸がこれらの病気と明確に関係していることを示す証拠は無い。 また、多価不飽和脂肪酸の摂取量を増やし、飽和脂肪酸の摂取量を減らしても、心血管疾患の発症リスクは減らせない。 1960年代以降、「動物性脂肪を豊富に含む動物性食品は、健康に悪影響を及ぼす可能性がある」と言われるようになると、栄養学者たちは、「動物の肉には、生命維持に欠かせない全ての必須アミノ酸、全ての必須脂肪酸、13種類ある必須ビタミンのうちの12種類がたくさん含まれている」という栄養学上の事実の指摘を控えるようになった。

● 砂糖と疾患
砂糖を摂取すると、高確率で肥満になる。砂糖は体内に入ると、血糖値の急上昇および高血糖の長時間の持続、インスリンの大量分泌、インスリン抵抗性、これらを同時に惹き起こす。果糖を投与された動物は、体重の制御ができなくなるだけでなく、摂食行動が止まらなくなり、体重が増えて体も動かさなくなることが動物実験で示された。砂糖の主成分は「ショ糖」(Sucrose)と呼ばれ、これはブドウ糖と果糖で構成される。果糖は、インスリンやレプチンを初めとするホルモンの受容体を破壊し、ホルモン抵抗性を惹き起こし、糖尿病の合併症・内臓脂肪の蓄積・脂肪肝をもたらす直接の原因となる。 野生の肉食動物や、狩猟採集生活を送っている集団は、肥満になる可能性は極めて低いが、これは「炭水化物が多いもの・糖分・砂糖を摂取する機会がほぼ皆無であるから」である。 英語圏においては、『Sugar Addiction』(『砂糖中毒』『砂糖依存症』)という言い方が広まっており、「砂糖に対する欲求や、砂糖を多く含んだものが止められないという砂糖に対する渇望感は、中毒症状の一種であり、その中毒症状を惹き起こすのは砂糖である」という見方が広まっている。アメリカ合衆国の歯科医師ウェストン・プライス(Weston Price)は、狩猟採集生活を送っている集団の食生活についての研究をまとめた報告書『食生活と身体の退化―先住民の伝統食と近代食その身体への驚くべき影響』(1939年)の中で、「砂糖を食べるようになってから、虫歯を患ったり、栄養不足に伴う病気が増えた」と述べている。クイーン・エリザベス大学の栄養学教授、ジョン・ユドキン(John Yudkin)は、著書『Pure, White and Deadly』(1972年)の中で、「肥満や心臓病を惹き起こす犯人は砂糖であり、食べ物に含まれる脂肪分は、これらの病気とは何の関係も無い」と断じている。1960年代、ユドキンはミネソタ大学の生理学者アンセル・キース(Ancel Keys)と、「砂糖・脂肪論争」を繰り広げた。この論争では、「心臓病を惹き起こす原因は(食べ物に含まれる)脂肪分にある」というキースの主張が通り、ユドキンの「砂糖が原因である」との主張は通らなかった。1970年代後半、アメリカ合衆国政府は「脂肪の摂取を減らし、炭水化物の摂取を増やせ」と国民に呼びかけたが、肥満・糖尿病・心臓病を患う国民の数は増加の一途を辿るようになった。 ユドキンの主張を支持する者の1人として、カリフォルニア大学の神経内分泌学者、ロバート・ラスティグ(Robert Lustig)がおり、カリフォルニア大学が製作・公開したラスティグによる講演『Sugar: The Bitter Truth』の中で、「砂糖は毒物であり、ヒトを肥満にさせ、病気にさせる」「砂糖の含有量が多いものには課税すべきだ」と断じており、著書『Fat Chance』の中でもそのように主張している。また、「砂糖はカロリーがあるだけで栄養価は皆無であり、肥満をもたらすだけでなく、タバコやアルコールと同じように中毒性が強く、含有する成分の果糖が内分泌系に悪影響を与え、心臓病や心臓発作、2型糖尿病を発症するリスクを高める」として、「砂糖の含有量が多いものには課税すべきである」との主張を科学雑誌ネイチャー誌(『Nature』)に発表した。 ゲアリー・タウブスは、2016年に出版した著書『The Case Against Sugar』(『砂糖に対する有罪判決』)の中で、「砂糖は『中毒性の強い薬物の一種』であり、ヒトを肥満にさせるだけでなく、心疾患の原因でもあり、健康を脅かす」「肥満とは、身体がホルモン障害を惹き起こした結果であり、そのスイッチを入れるのは砂糖である」と断じている。また、「砂糖は肥満、糖尿病、心臓病、メタボリック症候群を引き起こす原因であり、これにはインスリン抵抗性が関わっている」「砂糖はインスリン抵抗性の直接の原因となる」「インスリン抵抗性は癌の原因となる」と断じている。 ジェイスン・ファンも、「砂糖の摂取は、血糖値および血中のインスリン濃度を速やかに急上昇させ、その状態を長時間に亘って持続させ、さらにはインスリン抵抗性をも同時に惹き起こす」「砂糖や人工甘味料は、インスリン抵抗性を惹き起こす直接の原因となる」「『どれくらいの量なら砂糖を摂取してもいいか』というのは、『どれくらいの量ならタバコを吸ってもいいのか』という質問と同じである」「砂糖を食べると太る。この事実に異を唱える者はいないだろう」「太りたくない、体重を減らしたいのなら、真っ先にやるべきなのは、糖分を厳しく制限することである」と断じている。果糖を摂取し続けることで肝細胞に脂肪が蓄積していき、飲酒の習慣が無い人間でも脂肪肝を患う。脂肪肝を患って間もない時点ではまだ治る余地はあるが、進行すると炎症を起こして肝炎が発生し、最終的には肝硬変を惹き起こす。カリフォルニア大学のロバート・ラスティグも「砂糖は脂肪肝の原因になる」と主張している。また、ラスティグは果糖を「Alcohol Without the Buzz」(「酔わせる作用の無いアルコール」)と表現している。
・ 砂糖・果糖はほんの僅かな期間で肝臓に脂肪を有意に蓄積させる。
・ 砂糖・果糖は中性脂肪(Triglyceride)を有意に増加させ、空腹時の脂肪酸の酸化を低下させる(脂肪の燃焼を抑制・妨害し、身体から脂肪が減らない)。
・ 砂糖の摂取は、中性脂肪の数値を高め、高血圧を惹き起こし、内臓脂肪の蓄積を促し、インスリン抵抗性、糖尿病、メタボリック症候群を惹き起こす。砂糖を摂取し続けることで脂肪肝を患うと、心血管疾患を惹き起こして死亡する確率が上昇する。
・ 砂糖および果糖はインスリン感受性を低下させ、内臓脂肪の蓄積を促進し、空腹時の血糖値とインスリンの濃度を上昇させ、肝臓に脂肪を蓄積させ、ミトコンドリアの機能を妨害し、炎症の誘発を刺激し、脂質異常症、インスリン抵抗性を惹き起こし、糖尿病発症を促進する。
・ 砂糖および果糖の摂取は痛風を惹き起こす。心疾患、痛風、メタボリック症候群に砂糖が関わっていることは以前から知られていた。
・ 砂糖・果糖は衝動性と攻撃性を増加させ、多動性の採餌反応、双極性障害、注意欠陥・多動性障害を惹き起こし、さらには鬱病の原因にもなる可能性がある。
・ 砂糖は膵臓癌 を初めとする各種の癌を患う可能性を高める。これの摂取を断つことが、癌の予防や治療への取り組みとなりうることを示唆している。
・ 砂糖および果糖は脳においてもインスリン抵抗性を惹き起こし、脳の神経組織を破壊し、アルツハイマー病を惹き起こす。
・ 砂糖および果糖は「虫歯の大いなる原因である」と結論付けられている。砂糖が入っている飲み物の販売の禁止、砂糖の摂取に対する警告ラベルの商品への貼り付け、砂糖税の導入は、砂糖の摂取を減らせる取り組みとなりうる。
・ 砂糖および果糖の摂取は肝臓への脂肪の蓄積を促すが、炭水化物および砂糖が少ない食事を摂ると、蓄積した脂肪が急速に減少することが確認された。外部からの資金提供を受けることなく書かれた研究論文の著者は、「身体の健康を守るために砂糖の摂取を制限すべきである」と結論付けている。 1775年、イングランドの医師で生理学者、マテュー・ドブスン(Matthew Dobson)は、糖尿病患者の尿が甘いこと、その甘みの物質の正体は砂糖であることを突き止めた。1776年、ドブスンは自身の臨床経験について発表した。スコットランド出身の軍医、ジョン・ロロ(John Rollo)はドブスンの研究を参考に、糖尿病患者のための食事療法を考案し、糖尿病を患っていた陸軍将校2人に、肉と脂肪が多く、炭水化物が少ない食事を処方した。1797年、ロロは『An Account of Two Cases of the Diabetes Mellitus』(『糖尿病における2つの症例の説明について』)を出版した。2つの事例のうちの1つでは、この食事を処方された結果、232ポンド(約105㎏)あった体重が減少し、症状が解消され、血糖値と尿糖の濃度が低下したという。

● 炭水化物と高血糖
空腹時においても持続する高血糖症を慢性高血糖症と呼ぶ。高血糖を惹き起こす最も一般的な原因は、炭水化物の消費にある。 炭水化物を食べて高血糖になり、そのたびにインスリンを注射する、というのを繰り返していると、さまざまな合併症や癌を患う危険性が上昇し、インスリンの強制的な注射やインスリンの強制分泌を促進する薬物の服用は、身体に深刻な不利益をもたらす。インスリン療法を受けている患者は、インスリン療法を受けていない患者に比べて、心血管疾患(Cardiovascular disease)で死亡する危険性が上昇する。さらに、インスリンで高血糖を抑え込もうとすると、心血管疾患の発症率は低下せず、死亡率は上昇する。体重については、インスリンを注射していただけで10㎏以上も増加した。 血糖値が正常範囲内(90~99)であっても、血糖値が90未満の人間と比較すると、膵臓癌の累積発生率は有意に増加し、空腹時の血糖値が110を超えると、あらゆる癌で死亡する確率が有意に上昇する。「GLUT5」と呼ばれる果糖輸送体は乳癌の発生に関わっている。 たとえ運動していても、炭水化物を食べている限り高血糖は防げず、インスリン感受性は運動を終えた途端に低下する(インスリン抵抗性が高くなる)。インスリン抵抗性は運動では防げない。 「インスリン感受性が低い」ということは、「インスリン抵抗性が高い」(インスリンの効き目が悪い)状態を意味する。

● インスリンと肥満


◎ 「インスリンがヒトを太らせる」
体重を目標もしくはそれ以下まで落としたものの、その後再び体重が増えてダイエット開始前と同じ体重に戻ったり、以前よりも体脂肪率が増加する。これは俗に「リバウンド」と呼ばれている。減量とリバウンドを繰り返すと、痩せにくく、太りやすい状態となる。 体重のリバウンド現象については、インスリンおよびインスリン抵抗性が原因と考えられている。ジェイスン・ファンは、「リバウンドとは、インスリンが設定した体重に戻ろうとすること」と述べている。「体重の『設定値』を決めるのはこのインスリンであり、インスリンが過剰に分泌される状態およびインスリン抵抗性が続くと、インスリンが『体重の設定値のつまみを回す』。こうなると、何をどうしようとも、身体はインスリンが設定した体重に戻ろうとする」「体重のリバウンドが起こるのは、あなたの意志が弱いわけでも、努力が足りないわけでもない。インスリンがその人の体重を決める」という。2年間で体重が37㎏も増加した症例がある。体重の一方的な増加は、インスリンの過剰分泌が原因である。 膵臓内分泌腫瘍(Pancreatic Endocrine Tumors)における最大のものがインスリノーマであり、そのうちの10%は多発性であり、悪性である。 インスリノーマの最適な治療法は外科手術による切除であり。インスリノーマの切除に成功した最初の症例が報告されたのは1929年のことである。長時間絶食することにより、内因性高インスリン症を検出し、再発性低血糖の原因として不適切な形で上昇したインスリンの分泌を検出できる手段となる、有害な免疫学的副作用であり、重大な問題である。

◎ インスリンは脂肪分解を抑制・妨害する
インスリンは脂肪の合成と貯蔵を促進し、体内における脂肪分解を徹底的に抑制・阻害する最大のホルモンである。 インスリンは脂肪の蓄積を強力に促進し、空腹感を高め、体重増加を惹き起こす。たとえカロリーを制限したところで、インスリンを注射された動物には過剰な量の体脂肪が蓄積する。 インスリンの分泌を高める食事は、インスリンを注射した時と同様の作用をもたらす。脂肪分解を抑制・妨害する作用は、インスリンにおける最も敏感な代謝作用である。空腹時でもインスリンの濃度がわずかに上昇すると、脂肪細胞における脂肪分解作業は阻害される。さらに、84時間に亘って絶食状態にあった被験者と、84時間に亘って脂肪「だけ」を摂取し続けた被験者の血中の状態は「全く同じ」であった。双方とも、血糖値とインスリンの濃度は低下し、遊離脂肪酸とケトン体の濃度、脂肪分解の速度がいずれも上昇した。 体重を減らしたい人、心血管疾患の危険因子を減らしたい人にとって、炭水化物が少なく、脂肪(トランス脂肪酸を除く全ての脂肪。飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸)が多い食事はその選択肢となりうる。 ヒトを含めたすべての生物は、エネルギー基質や信号伝達の前駆体として、脂肪酸(Fatty Acids)を燃料にしている。脂肪酸を輸送および保存する際には、中性脂肪(Triglyceride)という分子の形で行われる。だが、中性脂肪はそのままの大きさでは細胞膜を通過できず、細胞への出入りが行われる際にはリパーゼ(Lipase)による作用で分解されなければならない。この生化学的過程を「脂肪分解」(Lipolysis)と呼ぶ。膵臓から分泌される膵液には脂肪分解作用があり、これは食べ物に含まれる脂肪分を腸が取り込む際に欠かせないものである。 インスリンは、LPLだけでなく、HSLにも影響を及ぼす。HSLは、脂肪細胞にて中性脂肪を脂肪酸に分解し、それが血液循環に流れ出るよう促す。この時、脂肪細胞内の脂肪が減少する。HSLの活性化が高ければ高いほど、脂肪細胞からより多くの脂肪酸が放出され、身体はそれを燃料にして消費し、貯蔵されている脂肪の量が減っていく。インスリンはこのHSLの働きを抑制し、脂肪細胞内の中性脂肪の分解を妨害し、脂肪細胞からの脂肪酸の流出を最小限に抑える。インスリンはほんのわずかな量でHSLの働きを抑制し、インスリンの濃度がわずかでも上昇すると、脂肪細胞内に脂肪が蓄積していく。HSLが欠損すると、脂肪組織の萎縮、炎症が起こり、インスリン抵抗性が全身に惹き起こされ、脂肪肝の発症を促進する。 成長ホルモン(Growth Hormone)には、蓄積した脂肪の減少を促す作用がある。成長ホルモンは中性脂肪の分解を刺激し、LPLを阻害することにより、体重と体脂肪の減少が促進される。HSLの活性化は、体重減少に伴って大幅に強化される。インスリンはLPLを活性化させ、HSLの作用を抑制するが、成長ホルモンはインスリンによる脂肪生成作用を低下させ、脂肪組織における脂肪の貯蔵と蓄積を抑制・阻害する。高脂肪食を組み合わせることで、中性脂肪の数値も改善される。 インスリンを除く全てのホルモンはHSLを刺激することで中性脂肪の分解を促進するが、HSLはインスリン感受性が非常に高く、インスリンを除く全てのホルモンには、インスリンによる脂肪蓄積作用を上回る力が無い。インスリン以外のホルモンによる脂肪細胞からの脂肪酸の放出が可能となるのは、インスリンの濃度が低い時だけである。 1965年、医学物理学者のロザリン・サスマン・ヤロウ(Rosalyn Sussman Yalow)と、医師で化学者のソロモン・アーロン・バーソン(Solomon Aaron Berson)の2人は、「脂肪を脂肪細胞から放出させ、それをエネルギーにして消費する」ためには、「Requires only the negative stimulus of insulin deficiency.」(「『インスリン不足』という負の刺激以外は必要ない」)と明言した。

● 参考

「低炭水化物ダイエット」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/
2023年12月11日17時(日本時間)現在での最新版を取得

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