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チェス(、 / šaṭranj シャトランジ)は、二人で行うボードゲーム、マインドスポーツの一種である。白・黒それぞれ6種類16個の駒を使って、敵のキングを追いつめるゲームである。チェスプレイヤーの間では、その文化的背景などからボードゲームであると同時に「スポーツ」でも「芸術」でも「科学」でもあるとされ、ゲームで勝つためにはこれらのセンスを総合する能力が必要であると言われている。
● 概要
非常に古い歴史を持つゲームであり、様々な媒体を通して盛んである。現在では欧米圏のみならず、全世界150か国以上で楽しまれている。カードゲームなども含めたゲーム全般においてもブリッジと並んで最も多くプレイされている。
チェスの起源には諸説があるが、一般的には古代インドの戦争ゲーム、チャトランガが起源であると言われている。日本においては、同じチャトランガ系統のゲームである将棋の方が遥かに競技人口が多く、両者は基本的なルールが似ていることから、チェスは西洋将棋または国際将棋と訳されることがある。一方で、チェスと将棋はチャトランガが異なるルートで東西に伝播しつつ独自の変遷を遂げたものであるとされ、盤の広さや駒の性能、取った駒の扱いに関するルールの違いなどから、両者は似て非なるゲームであるとも評される。
競技としてのチェスは、頭脳によるスポーツの代表格でもある。遊戯としての側面のほかに、ARISF加盟IOC承認スポーツであるなど、スポーツとしての側面も持つ。
ゲーム理論では、二人零和有限確定完全情報ゲームに分類される。
● 用具
最低限必要な物
・ チェスボード:縦横8マスずつに区切られた、64マスの市松模様の正方形の盤。「チェス盤」とも呼ばれている。
・ チェスピース:6種類の動き方が異なる駒の総称。全体の駒の数は、白黒あわせて32個。公式戦では、イギリスのジャック・オブ・ロンドンが販売したことで定着したスタントンチェスセットと呼ばれる駒が使用される。各人、キングx1、クイーンx1、ビショップx2、ナイトx2、ルークx2、ポーンx8、あわせて16個をもつ。敵味方の識別はその色で行う(将棋のように駒の向きではない。また、チェスの駒の向きは関係ない。例のナイトの駒は左向きであるが特に意味は無い。)。
公式戦などで必要になる物
・ チェス・クロック(対局時計):主に公式戦で指す場合に使用する。
・ スコアシート(棋譜用紙):公式戦では、互いのプレイヤーが駒の動きを一手一手記録する必要がある。
● チェスの遊び方(概略)
・ ゲームは2人のプレイヤーにより、チェスボードの上で行われる。
・ 白が先手、黒が後手となる。
・ 双方のプレイヤーは、交互に盤上にある自分の駒を1回ずつ動かす。パスをすることはできない。
・ 味方の駒の動ける範囲に敵の駒があれば、それを取ることができる。
・ただしポーンだけは、敵の駒を取れる範囲が通常の移動範囲と異なる。
・ 敵の駒を取った駒は、取られた駒のあったマスへ移動する。
・ これはポーンも同じだが、ポーン同士によるアンパッサンは例外である。
・ 取られた駒は盤上から取りのぞき、以降そのゲームが終わるまで使用しない。
・ ナイトと、キャスリング時のキング・ルークを除き、駒は他の駒を飛び越して移動することはできない。
・ キングは、敵の駒が利いている(直後の手で取られるような)場所には移動することができない。
・ 相手のキングに、自分の駒を利かせて取ろうとする手を「チェック」と呼ぶ。
・ この状態では、相手側は次の手ですぐにキングの安全を確保しなければならない。
・ キングが次の手で絶対に逃げられないように追い詰めたチェックのことを「チェックメイト」と呼び、この手を指したプレイヤーの勝ちになる。
・ 以下の場合はすべて引き分けとなる。
・ ルール上動かせる駒がなくなったがチェックにはなっていない状態「ステイルメイト」になった場合
・ どちらもチェックメイトができなくなるほどにコマを失った場合
・ 永久王手など、同一の局面が3回生じる千日手が指摘された場合
● チェスの歴史(概略)
・ チェスの起源は紀元前、古代インドのチャトランガだと言われている。ただしチャトランガがどのようなゲームであったかについては論争がある。詳細は「チャトランガ」を参照。
・ ペルシアに伝えられてシャトランジと名を変え、さらにヨーロッパに伝わっていった。
・ 8世紀にはロシアに伝えられ、約100年遅れて西ヨーロッパへ伝わる。
・ 15世紀末、ルイス・デ・ルセナによるヨーロッパ最初のチェスの本、「チェスの技術」が出版された。
・ 16世紀、ほぼ現在と同じルールに固定された。「アンパッサン」、「ツークツワンク」、「キャスリング」などの用語がヨーロッパ各地の言語で生まれていることからもわかるように、ヨーロッパ各地でルールが発展していった。
・ 17世紀には、チェスは娯楽として普及。資産家をスポンサーとして競技されるようになる。
・ 1749年、フィリドールが『フィリドールの解析』を著し、「ポーンはチェスの魂である」との言葉を残す。
・ 1857年、ポール・モーフィーが、アメリカのチェス大会で優勝。翌年ヨーロッパに渡り、ここでも圧倒的勝利を収めている。
・ 1886年、ヴィルヘルム・シュタイニッツがツケルトートを破り、「公式」な世界チャンピオンとなる。
・ 1935年、アレヒンが1937年にタイトルを奪回、1946年に死去するまでチャンピオンの地位にあった。このアレヒン以降は、ソ連-ロシアのプレーヤーがチャンピオンを保持し続ける時代が長かった。
・ 1972年、ボビー・フィッシャーが、ボリス・スパスキーを破ってチャンピオンの座に就く。フィッシャーは「米国の英雄」とも呼ばれたが、1975年防衛戦の実施方法を巡ってFIDEと対立。タイトルを剥奪された。
・ 1997年、FIDEは国際オリンピック委員会(IOC)の勧告を受け入れ、挑戦者制をトーナメント制に改めた。
・ 2000年、インドのアナンドが優勝。初めてチェス発祥の地にチャンピオンが誕生した。
● 戦い方
チェスの戦いは、基本的に「戦略(Strategy)」と「戦術(Tactics)」の2つの面で考えられる。「戦略」は、局面を正しく評価し、長期的な視野に立って計画を立てて戦うことである。「戦術」は、より短期的な数手程度の作戦を示し、「手筋」などとも呼ばれる。戦略と戦術は、完全に切り離して考えられるものではない。多くの戦略的な目標は戦術によって達成されること、戦術的なチャンスはそれまでの戦略の結果として得られることが多いからである。
◎ 駒の配置
ゲームの目的は、相手のキングを詰めることである。したがって、まず有利な局面を作ることが目標とされる。局面の優劣を評価する上で重要な要素は、駒を得すること(マテリアルアドバンテージ)と、駒がよい位置を占めること(ポジショナルアドバンテージ)である。
○ マテリアルアドバンテージ
取られた駒を永久に排除されるチェスにおいては、相手より駒が多いか少ないかが重要な意味をもつ。駒の価値は目安として、ポーン = 1点、ナイト = 3点、ビショップ = 3点強、ルーク = 5点、クイーン = 9点とされ、合計点数が1点でも違うと、特に終盤では大きな差となる。合計点数が多いことを、マテリアルアドバンテージ(material advantage)をもつという。多くの場合ポーン(P)を1個多く奪われることは、勝敗に大きく影響する。終盤では、ポーンがクイーンになるプロモーションの争いとなることが多いからである。このため、7段目に進んだポーンを3点に評価する考え方もある。またビショップは盤上半数のマスには進めないため、自分にだけ2つのビショップが揃っている場合は6点ではなく7点近くに評価する考え方もある。これをツービショップ、またはビショップペアという。
○ ポーンの形
・ ポーンは後退できない駒なので、前進には慎重さを要する。動きの制約が最も大きく狙われても容易に逃げることができないので、ポーンが狙われにくい配置であることが重要である。
・ ポーンによってキングを安全にし、他の駒のための空間を確保し、重要なマスを支配することも大きな要素である。
◎ 戦術
戦術は、1手から数手程度で完結する短期的な戦い方の技術である。戦術では「先を読む」ことが重要で、コンピュータが得意とする分野である。戦術においてよく用いられる基本的な手段としては、フォーク(両取り)、ピン、ディスカバードアタック、スキュア(串刺し)、ツークツワンクなどがある。戦術のなかでも、駒の犠牲を払って優位な形やチェックメイトを狙うものは、「コンビネーション」と呼ばれている。
◎ ゲーム全体の流れ
チェスの1局は、序盤・中盤・終盤の3つの局面に分けて考えられることが多い。序盤 (Opening) は多くの場合、開始10手から25手程度を指し、対局者が戦いに備えて駒を展開する局面である。中盤 (middlegame) は多くの駒が展開され、局面を優位にコントロールするために様々な戦術が用いられる。終盤 (endgame) は、大部分の駒が交換され盤上から無くなった局面で、キングが戦いにおいて重要な役割を担う。盤上の駒の数がゲームの進行に伴って不可逆的に減少するチェスにおいては、駒の数が減った場合における完全解析のプロジェクトが進行しており、2018年までに「白黒双方のキングと残り5駒を加えた盤上7駒」までの状況について完全解析が完了し、「テーブルベース」としてデータベース化されている。
チェスの戦い方を表す格言として、「序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように指せ」という言葉がある。これは序盤を既に確立された序盤定跡に忠実に従うことを「本」、中盤以降は記憶に頼ることが難しくなるため、そこで要求される巧みさや機転を「奇術」にたとえている。終盤の「機械」とは、特にチェックを意識する最終盤における読みの深さ、ミスを犯さない冷静沈着な精神などを指す。
◎ 形勢判断
前述の通り、形勢判断に最も重要な要素は、残存戦力、すなわち残っている駒の数である。次いで駒の働き、キングの安全性が判断材料となる。
◎ 序盤
・ 序盤定跡
・ 序盤定跡については、Batsford Chess Openings 2 (BCO2) や、Modern Chess Openings(MCO) が詳しい。
・ 序盤の原則
・ 中央支配
・中央を支配することは要点の一つである。中央を支配することによって陣地が広がるので、自分の駒は移動の選択肢が増え、相手(敵)の駒は移動の選択肢が少なくなる。
・白の二つのポーンが d4 と e4 に並ぶか、c4, d4 または e4, f4 に並ぶファランクスは白にとって一つの理想であり、最初の数手はこれをめぐる争いであることが多い。定跡 Queen's Gambit Declined (1. d4 d5 2.c4 e6) の 2.c4 (gambit) は、もし黒が 2.… dxc4 と取れば 3. e4 としてファランクスを作る意図であるし、そうしない 2. … e6 (declined) は、中央を守ろうとするものである。
・ マイナーピースの展開とイニシャティブ
・数多くのマイナーピース(ナイトとビショップ)を早く中央寄りに繰り出すことも重要である。最初の位置よりも中央寄りであるほうが、利きが及ぶ点が多く、駒の力を活かすことになる。
・さらに、敵の駒に利きを及ぼすことによって、敵の手が制限されてくる。狙われた駒が守られていない駒ならば、それを守る手が必要になるし、狙われた駒が既に守られている駒であっても、その駒を守っている駒が動かせなくなるという制限を受けることになる。つまり、敵の手の選択肢が減ってくる。このような状態をイニシャティブを取った状態という。
・Ruy Lopezの 1. e4 e5 2. Nf3 Nc6 3. Bb5 という動きはこれらの原則の典型である。
● 競技人口
2018年現在、世界全体でルールを知る人は推定約7億人とされ、もっとも広く親しまれているゲームのひとつである。世界チェス連盟 (FIDE) 所属の登録競技者数は2018年現在で36万人である。
◎ 日本語の情報環境
将棋のトッププロ棋士・羽生善治は趣味でチェスを行いFIDEマスター位を有する、日本国内屈指の強豪である。羽生は2005年の著書『上達するヒント』の中で、「私は趣味でチェスをするのですが、日本ではプレイする人が少ないので、母国語(日本語)のチェスの本はほとんど出版されていません。ですから、海外で将棋を愛好する人達が母国語の将棋の本がとても少なく、情報が少なくて物足りない気持ちは十分理解できるつもりです。」と記した。ただし2005年以降に出版点数は増えている。それ以前も合わせて複数のチェス書(翻訳書を含む)を出した出版社として日東書院、河出書房新社、白水社、毎日コミュニケーションズ(現社名マイナビ)、山海堂(解散)、チェストランス出版、アンパサンチェス研究会、デイリー子供クラブなどがあり、ほかに自費出版のものもあり、これらの一部は電子書籍化されている。加えて世界的なネット対戦サイトの Chess.com や Lichess、その携帯用アプリでもインターフェースや一部の教材が日本語化され、日本語でのチェス学習環境は大きく進歩している。
● 称号
グランドマスター GM(女性限定:WGM)
インターナショナルマスター IM(女性限定:WIM)
FIDEマスター FM(女性限定:WFM)
キャンディデイトマスター
CM(女性限定:WCM)
国際審判 IA
通信チェスグランドマスター ICCF GM
通信チェスシニアインターナショナルマスター ICCF SIM
通信チェスインターナショナルマスター ICCF IM
期間称号 備考
各種世界チャンピオン 国際チェス連盟が定める規約に従って選出された者
各種国内チャンピオン 国際チェス連盟加盟国協会が定める規約に従い選出された者
● 通信チェス(概略)
◎ 通信チェスの概要
・ 「通信チェス」とは遠距離の相手と、通信を用いて行うチェスの対局を指す。一つのゲームが一日以内で終了するケースはごくまれで、数日・数週間・数ヶ月かかるのが一般的である。
・ OTB:「Over-The-Board chess」のこと。対局者とボードを挟んで、リアルタイムにプレイする通常のチェスを指す。
・ 通信チェス:「Correspondence chess」のこと。一般郵便・Eメール・専用サーバなどの通信手段を用いて行われる。
・ゲームの勝敗はすべて管理組織に報告され、レイティングや次の対局などに反映される。
・ 通信チェスの世界最大の組織は、ICCF(国際通信チェス連盟) である。日本では、ICCF公認のJCCA(日本通信チェス協会) が管理している。
・ JCCAは、以前はJPCA(日本郵便チェス協会) と呼ばれていた。
・ インターネットが普及する以前は郵便でのやりとりが多かったため、日本では「郵便チェス」の名で親しまれていた。現在はEメールやWebサーバを使用しての対局が多くなり、変更された組織の正式名称にあわせて「通信チェス」と呼ばれている。
◎ 通信チェスの特徴
対局は同時刻に行われず、双方が一手一手異なる時間帯にプレイする。
持ち時間が時間 (Hour) ではなく、日数 (Day) 単位で規定されている。
ゲームの対局中でも、書籍やデータベース・ソフトの利用が公認されている。
● コンピュータ・チェス
◎ ゲームとしての数学的特性
チェスの盤面状態の種類は10程度、ゲーム木の複雑性は10程度と見積もられている。
他のゲームでは、盤面状態の種類は、チェッカーが1020程度、リバーシが1028程度、シャンチーが1048程度、将棋が1071程度、囲碁が10170程度 となっており、チェスは、囲碁、将棋の次に大きな値である。
同様に、ゲーム木複雑性は、チェッカーが1031程度、リバーシが1058程度、シャンチーが10150程度、将棋が10226程度、囲碁が10400程度となっており、チェスは囲碁、将棋、シャンチーの次に大きな値である。
ゲーム理論では、チェスのようなゲームは二人零和有限確定完全情報ゲームに分類される。理論上は完全な先読みが可能であるこの種のゲームでは、双方のプレーヤーがルール上可能なあらゆる着手の中から最善手を突き詰めた場合、先手必勝、後手必勝、ないし引き分けのいずれかの結果が最初から決まってしまうことがエルンスト・ツェルメロによって証明されている。
チェスの初手から最終手までにルール上可能な着手は、1950年にクロード・シャノン によって10と試算されている。その全てを網羅し必勝戦略を導き出すことはいまだ実現に至っていないものの、コンピュータにチェスをさせるという試みはコンピュータの黎明期から行なわれており、コンピュータの歴史と、コンピュータチェスの歴史は並行して歩んできた。
◎ コンピュータ・チェスの考案
機械にチェスを指させることは、コンピュータが発明される以前から人々の目標となっていた。
1769年にハンガリーのヴォルフガング・フォン・ケンペレンはトルコ人という名の人形を製作した。この人形は、熟練者級のチェスの腕を持ち、ナイト・ツアーをこなすこともできた。しかし、実際にはトルコ人は中に人間が入って操作するイリュージョンであった。チェスを指す人形を題材にしたイリュージョンは、他にもやなど様々なものがあった。
1840年代に数学者のチャールズ・バベッジは、機械にゲームをプレイさせるためのアルゴリズムを考案した。しかし、チェスのような複雑なゲームをプレイさせることは現実的ではないとして、チェスのアルゴリズムの考案を断念した。
1912年、スペインの技術者レオナルド・トーレス・ケベードが、世界で初めて自動でチェスをプレイする機械「エル・アヘドレシスタ」の開発に成功した。エル・アヘドレシスタは、3種類の駒のみで構成されたエンドゲームをプレイすることができた。一方、初期配置からチェックメイトまでを通してプレイするためにはコンピュータ科学の発展を俟たなければならなかった。
1936年に数学者のアラン・チューリングが抽象的なコンピュータの概念であるチューリングマシンを考案すると、これを機に様々なアルゴリズムが整備されるようになり、1945年にドイツのコンラート・ツーゼがチェスプログラムのアルゴリズムについて世界で初めて言及した。1949年、ベル研究所のクロード・シャノンが評価関数や探索木などの概念を確立し、チェスのアルゴリズムの大枠を完成させた。1951年にはチューリングがチェスのアルゴリズムに基づき、初期配置からチェックメイトまでのプレイができることを示した。もっとも、これらのチェスアルゴリズムは、電子的に実装されたものではなく、アルゴリズムの手順に従って紙と鉛筆を使って手計算を繰り返すことで、チェスのプレイが可能であることを示したものである。
1945年に数学者のジョン・フォン・ノイマンがノイマン型コンピュータを考案し、チューリングマシンを具体化する方法を提示すると、電子回路によってコンピュータを実装することが可能になり、1950年代前半にかけて、コンピュータが次々と製作された。コンピュータが制作されたことでツーゼ、シャノン、チューリングらが考案したチェスアルゴリズムを電子的に動作させることができるようになり、1956年、ロスアラモス研究所がコンピュータ上で6×6のミニチュアボードでチェスをプレイするプログラムを実装した。これにより、コンピュータ・チェスが確立した。
◎ コンピュータ・チェスの発展
黎明期の1950年代のチェスプログラムはとても弱く、人間の頭脳で判断すればすぐに愚かなものだと判断がつくような手を連発するものが多く、人間の中級者(どころか初心者)でも簡単に打ち負かすことができるようなマシン(プログラム)ばかりであった。最も強い部類でもMac Hack VI(マックハック)でせいぜいレーティングは1670と言われる程度にすぎなかった。当時、果たして将来的にでも人間の一流プレーヤーを破ることができるようなプログラムができるのか、という点に関して非常に疑問視されていた。1968年にはインターナショナル・マスターのデイヴィッド・レヴィは「今後10年以内に自分を破るようなコンピュータは現れない」というほうに賭ける賭けを行い、実際1978年に当時最強の<チェス4.7>と対戦し、それに勝った。ただし、当時レヴィは遠くない未来に自分を越えるコンピュータが現れるかもしれない、との感想を漏らした。そして、レヴィがエキシビションマッチでディープ・ソートに敗れたのは1989年のことであった。
コンピュータと人間の力関係の象徴的なものとして世界中の注目を集め、そして結果として人々に深い印象を残したのは、IBMのディープ・ブルーとガルリ・カスパロフの対戦であった。1996年に両者の対戦が行われたところ、6戦の戦績として、カスパロフ(人間の世界チャンピオン)の側の3勝1敗2引き分けで、人間側の勝利であった(人間の世界チャンピオンの頭脳のほうが、世界最強のチェスマシンよりも強いことを知り喜んだり快く思う人、「ほっとした」人も多かった)。ただし、コンピュータチェスを推進する人々からは、初めて人間の世界チャンピオンから1局であれ勝利を収めた、という点は評価された。1997年、ディープ・ブルーが再度ガルリ・カスパロフと対戦し、ようやく初めて世界チャンピオンに勝利を収め、コンピュータチェスの歴史に残る大きな節目(あるいは人類の意味の歴史の一こま)として大々的に報道された。勝利したIBM側は、格好の宣伝材料としてこの出来事を利用し、すぐにディープ・ブルーを解体してしまい、それとの再戦(リベンジ戦、名誉回復戦)はできない状態にしてしまった。
その後のコンピュータと人間の対戦の際立ったものを挙げると、2002年10月に行われたウラジーミル・クラムニク(露)とコンピュータソフト「ディープ・フリッツ」とのマッチでは、両者が引き分け、2003年01月26日から2月7日までニューヨークで行なわれたカスパロフと「ディープ・ジュニア」とのマッチも、1勝1敗4引き分けで両者引き分けに終わり、2003年11月11日から11月18日まで行なわれたカスパロフと「X3Dフリッツ」のマッチも、1勝1敗2引き分けで両者引き分けに終わったこと、また2006年10月に統一世界チャンピオンとなったクラムニクとディープ・フリッツとの6ゲームマッチが、2006年11月25日から12月5日までボンで行なわれ、ディープ・フリッツが2勝4引き分けでマッチに勝ったことなどが挙げられよう。
こうして、今日では人間のチャンピオン対コンピュータの対戦もよく行われている。また上記のような特殊なチェス専用マシンでなくても、市販のPCやスマートフォン上で走るチェスプログラムも強力となっており、対戦して楽しんでいるファンも多い。
● チェスを扱った作品
◎ 文学
・ ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』
・ ウラジーミル・ナボコフ『ディフェンス』
・ レイモンド・スマリヤン(野崎昭弘 訳)『シャーロック・ホームズのチェス・ミステリー』
・ パトリック・セリー(高橋啓 訳)『名人と蠍』
・ ダン・シモンズ『殺戮のチェスゲーム』
・ S・S・ヴァン=ダイン『僧正殺人事件』
・ ウィリアム・フォークナー『Knight's Gambit』
・ ダレン・シャン『デモナータ』
・ ベルティーナ・ヘンリヒス『チェスをする女』
・ たけうちりうと『騎士(ナイト)とビショップ』『騎士とサクリファイス』『騎士とテロリスト』『騎士とプリンス』
・ 春原いずみ『チェックメイトからはじめよう』
・ 小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ』
・ ラファエル・ピヴィダル『08 ou la haute fidélité』
・ 瀬名秀明『第九の日―The Tragedy of Joy』
・ 浅井ラボ『灰よ、竜に告げよ』―されど罪人は竜と踊る〈2〉
・ 竹本健治『チェス殺人事件』(短編)
・ 柳広司『キング&クイーン』
・ 北村薫『盤上の敵』
・ 宮内悠介『人間の王』(短編、『盤上の夜』収録)
・ 石井仁蔵『エヴァーグリーン・ゲーム』
・ 野尻抱介『ヴェイスの盲点』
◎ 美術および音楽
西洋の絵画、特に17世紀までのヴァニタスをはじめとする寓意的な静物画には、触覚を示す比喩として、チェスボードや駒が描かれる事がある。また、近現代においては、マルセル・デュシャンは自身もチェス・プレイヤーをしていた経歴をもち、作品に度々登場させている。現代音楽では、ジョン・ケージ(チェスに関してはデュシャンの弟子でもある)が、チェスボード上を動く駒の音を作品に取り入れた例がある。
・ ルドヴィコ・カラッチ『チェスをする人』
・ リュバン・ボージャン『チェス盤のある静物』
・ ウジェーヌ・ドラクロワ『チェスをするアラブ人』
・ オノレ・ドーミエ『チェスをする人』
・ アンリ・マティス『画家の家族』『チェスボードの隣の女』
・ パウル・クレー『スーパー・チェス』
・ マルセル・デュシャン『チェス・プレイヤーの肖像』『ポケットチェスセット』
・ ジョン・ケージ(音楽)『0'00" No.2』『チェス・ピース』『再会(Reunion)』(マルセル・デュシャンとの共演)
・ ソフォニスバ・アングイッソラ『チェスをするルチア、ミネルヴァ、エウロパ』
・ Official髭男dism『Chessboard』
◎ 舞台作品
・ バレエ『チェックメイト』(振付:ニネット・ド・ヴァロア、作曲:アーサー・ブリス)
・ ミュージカル『Chess』(1984年、作:ティム・ライス)
◎ 映画
○ チェスを主題とした作品
英語版のカテゴリ(:en:Category:Films about chess)も参照
・ - 1925年モスクワ大会の際に作られたコメディ短編、大会参加者が多数出演している
・ ロシアの白い雪(Belyy sneg Rossii) - アレクサンドル・アレヒンの伝記映画、1980年ソ連作品
・ La Diagonale du fou - 川端康成『名人』をチェスに翻案した1984年のフランス・スイス合作映画
・ ボビー・フィッシャーを探して - 1993年
・ ゲーリーじいさんのチェス - ピクサーのアニメーション作品、1997年アカデミー短編アニメ賞受賞
・ - ウラジーミル・ナボコフの小説『ディフェンス』を映画化。2000年
・ Game Over: Kasparov and the Machine - ディープ・ブルー対ガルリ・カスパロフ戦を扱った2003年のドキュメンタリー映画
・ - 2005年米国のテレビ映画
・ 完全なるチェックメイト - 1972年の世界選手権マッチ、フィッシャー対スパスキー戦を米ソ冷戦の枠組みでとらえる。2014年
・ - 新設チェスクラブの戦いを描くニュージーランド映画、各地の映画祭で受賞
・ - チェス・オリンピアードに出場するウガンダの少女を描いた2016年南アフリカ/アメリカ作品
・ ファヒム パリが見た奇跡 - バングラデシュ難民のフランスでの活躍を描いた2019年フランス作品
・ 世にも奇妙な物語 映画の特別編「チェス」
○ チェスの場面がある作品
・ 007 ロシアより愛をこめて
・ 2001年宇宙の旅 - 宇宙船を制御するコンピュータである「HAL 9000」が船員を相手にチェスを指す場面がある。チェスで人間を負かす程の知能を持つHAL 9000は、後に船員に対して反乱を起こす。
・ 相棒 -劇場版- 絶体絶命 42.195km 東京ビッグシティマラソン
・ 第七の封印
・ 美しき獲物 (クリストファー・ランバート&ダイアン・レイン)
・ 華麗なる賭け
・ ご注文はうさぎですか?
・ キューブ ゼロ(CUBE ZERO)
・ チェスをする人:en:The Chess Players (film)(サタジット・レイ監督)
・ デスノート - 映画版には、自分自身が黒幕であることを隠して警察に協力する主人公と、それを暴こうとする好敵手が、チェスで勝負を繰り広げる場面がある。
・ デスノート the Last name
・ ハリー・ポッターと賢者の石 - 原作小説、および映画のクライマックスで、敵対者の元へ向かうため主人公らが人間を駒に見立てたチェスを行う場面がある。
・ ブレードランナー
◎ テレビ
○ チェスを主題とした作品
・「屋台でうまれた“チェス王子”-インドネシア ブカシ-」(2009年放映、NHKのドキュメンタリー「アジアンスマイル」の一話)
・ クイーンズ・ギャンビット - 2020年のNetflixオリジナルドラマ
○ チェスの場面がある作品
・ End game〜天才バラガンの推理ゲーム〜 - 主人公がチェスの前チャンピオン。
・ スパイ大作戦(シーズン2)「王手」
・ 刑事コロンボ第16話「断たれた音」
・ スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説第13話「白銀の決闘 スキー場は大パニック」 - 主要登場人物の矢島雪乃がチェス大会に出場する。
・ 相棒 - 主人公・杉下右京の趣味として随所に登場。特にシーズン14のオープニングには対局シーンが使われている。
・ CSI:科学捜査班(シーズン14)第16話「破滅の王者」
・ コールドケース 迷宮事件簿(シーズン2)第19話「チェス」
・ NUMBERS 天才数学者の事件ファイル(シーズン4)14話「死のチェックメイト」
・ メンタリスト(シーズン2)「赤い鼻の恐怖」
・ クリミナル・マインド FBI行動分析課(シーズン5)第12話「人形の館」・(シーズン7)第11話「天才vs.天才」・(シーズン8)第12話「ツークツワンク」~第24話「レプリケーターの正体」 - シーズン8後半はツークツワンクというチェス用語がキーワードになる。また主要キャラにチェスを得意とするキャラが2人おり、これら以外でもチェスをしているシーンが多い。
・ 明治開化 新十郎探偵帖(2020〜2021年、NHK BSプレミアム)
◎ 漫画
○ チェスを主題とした作品
・ 雪リコ『チェックメイト』
・ 磯見仁月『クロノ・モノクローム』
・ 若松卓宏『盤上のポラリス』
○ チェスの場面がある作品
・ 山本亜季『HUMANITASヒューマニタス』第2章「冷戦下・旧ソ連のチェス王者・ユーリ」
・ 三条陸(原作)、稲田浩司(作画)、堀井雄二(監修)『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』 - 大魔王が嗜んでいるほか、作中ではチェスの駒をもとに、ハドラー親衛騎団と呼ばれる五体の金属生命体が生み出される。アニメ放送期間中にはファン向けにシルバー製チェスセットが数量限定販売された。
・ さいとう・たかお「ゴルゴ13」
・「チェックメイト」(第117話)マフィアのボスが棋譜を読みながら駒を進めたり、来客者と対局を楽しむ描写がある。
・「メイティング・マテリアル」(第269話)投資会社の社長がボディガードとの対局やインターネットでの対局(作品が描かれたのは1987年で当時はチャットで対局を行っていた。)を行う描写がある。
◎ アニメーション
・ カウボーイビバップ(Session14「ボヘミアン・ラプソディ」)
・ コードギアス 反逆のルルーシュ - 主人公の特技はチェスという設定があり、作戦行動をチェスの戦局に例えるなど、様々な場面でチェスの用語やチェスセットが象徴的に登場する。対局の場面もある。
・ ダーティペア(テレビ版)第24話
・ ノーゲーム・ノーライフ
・ ルパン三世 - ルパン三世 (TV第2シリーズ)でチェスを行うシーンが多い。22話ではコンピュータチェスとルパン三世が対決するシーンがある(ルパンの負け、コンピューターはルパンによってスクラップに)。ほか57話でもハンター教授がコンピュータチェスで対戦している他、ルパンが「泥棒とチェス(勝負)は終わってみるまでわからない」というシーンもある。
・ ペンギン・ハイウェイ
・ 涼宮ハルヒの憂鬱
「チェス」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/)
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