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雨(あめ)とは、大気から水の滴が落下する現象で、降水現象および天気の一種。また、落下する水滴そのもの(雨粒)を指すこともある。大気に含まれる水蒸気が源であり、冷却されて凝結した微小な水滴が雲を形成、雲の中で水滴が成長し、やがて重力により落下してくるもの。ただし、成長の過程で一旦凝固し氷晶を経て再び融解するものもある。地球上の水循環を構成する最大の淡水供給源で、生態系に多岐にわたり関与する他、農業や水力発電などを通して人類の生活にも関与している。 空気中の水蒸気の量を表す身近な指標として相対湿度があり、通常は単に湿度と呼ぶ。相対湿度とは、空気がある温度(気温)であるときに含むことができる水蒸気の最大量(飽和水蒸気量)を100%とし、実際に含まれている量を最大量に対する割合で表したものである。例えば、気温25℃・相対湿度50%の空気には、1m3(=1000リットル)あたり11.4gの水蒸気が含まれる。 空気の相対湿度が増して100%に達することを飽和という。空気は、何らかの要因によって冷やされることで飽和する。飽和した空気では、水蒸気が凝結して微小な水滴を形成する。これが雲である。

◎ 凝結・暖かい雨
空気中での水滴の凝結は実際には、凝結核を介して行われる。球の形をする水滴には表面張力が働くが、水滴が小さいほど表面張力が強く核生成が安定しない。ある実験によれば、ほこりのない非常に清浄な空気中では、0℃のとき相対湿度が100%を超過(過飽和)してさらに430%まで達しなければ、水滴は自発的に形成されない。対して、通常の大気のように凝結核がある空気中では、エアロゾルの働きにより凝結が助けられるため、相対湿度は概ね101%を上回ることがない。雲の凝結核として働く主なエアロゾルには、燃焼ガスや火山ガスに由来する0.1-1µmの硫酸塩粒子、海のしぶきに由来する数µmの海塩粒子や、土壌由来の粒子、有機エアロゾルなどがある。 雲ができたての時の水滴(雲粒)の大きさは、半径1 - 20µm (0.001 - 0.02mm)程度である。これに対し、雨粒の平均的な大きさは半径1,000µm(1mm)である。なお、雲の中には1m3あたり1000万 - 数百億個の雲粒が存在する。半径1 - 10µm程度の初期の段階では、雲粒の表面にさらに水蒸気が凝結していくことにより通常でも数分ほどで10µm程度の大きさに成長する(凝結過程)。しかし、凝結による成長は粒径が大きくなるほど遅くなる。雲粒の平均を半径10µmだとして、半径100倍の1,000µmに成長するためには、体積にして100万倍、これを雲の中の平均的な水蒸気量の下で凝結だけで行うと約2週間かかると試算され、現実とはかけ離れている。実際には、10 - 30µm程度に達すると水滴同士の衝突により成長する(併合過程)。衝突併合による成長は粒径が大きいほど速いため、この段階では加速的に成長が進む。なお、海洋の積雲では、吸湿性の海塩粒子が豊富な事から大きな粒子がすぐに生成され、雲ができ始めてから20 - 30分程度で雨が降り出すことも珍しくない。 上記のように、一貫して液体のまま雨として降るプロセスを「暖かい雨」という。これに対し、途中で凍結して氷晶になり、再び融解して降るプロセスを「冷たい雨」という。日本で降る雨は、およそ8割が「冷たい雨」のプロセスによるものだと言われている。

◎ 氷晶・冷たい雨
気温が0℃を下回る冷たい空気の環境下で起こる。単体氷晶の形成としては、水蒸気が凝結核を介して凝結した水滴がさらに氷晶核の働きにより凍結し氷晶となるパターンと、水蒸気が氷晶核を介して昇華し直接氷晶を形成するパターン、さらに、氷晶同士の衝突などで生じる二次氷晶がある。 空気中では、気温が0℃を少し下回ったくらいでは水滴の凍結が始まらないことが多い。0℃以下で凍らない状態を過冷却と言う。凍結核は、水滴に衝突することによる衝撃や、水滴に溶け出すことによる化学的効果などを通して、概ね-30℃以上の環境下で凍結を促す。-30℃以下の環境では、昇華による氷晶の形成が起こる。また、-40℃以下の環境では、凍結核がない場合でも純水の均質核生成により水滴が凍結する。 雪片や霰が落下する途中で、0℃より高い空気の層に達すると融け始め、完全に融けると液体の雨粒となる。融けきれない場合は雪となる。雪は落下途中で昇華(気化)しながら昇華熱を放出するため、2 - 3℃程度では雪の形状を保ったまま降ることがある。雪になるか雨になるか、あるいは雪と雨が混合する霙になるかは、気温と相対湿度により決まる。 主に雨を降らせる雲は、十種雲形において層雲、乱層雲、積乱雲に分類される雲である。層雲は地上に近いところにでき、弱く変化の少ない雨を降らせることが多い。乱層雲は灰色を呈し風により変化に富む形状をする雲で、雨を降らせる代表的な雲である。積乱雲は上空高くもくもくと盛り上がる雲で、乱層雲よりも激しく変化の大きい雨を降らせ、しばしば雷や雹を伴う。 雨雲の下端(雲底)の高さは実にさまざまだが平均的には約500m - 2,000m程度で、多くの雨粒はこの距離を落下してくる。周囲の空気が乾燥していると、雨は落下する途中で蒸発してしまう。このときには、雲の下に筋状の雨跡を見ることができ、これを降水条や尾流雲と呼ぶ。

● 雨の降り方


◎ 降水型
雨は、雲を生じさせる要因によりいくつかの降水型に分類できる。
・対流性降雨 - 不安定成層をした大気において生じる対流性の雲から降る雨。おおまかな傾向として、高緯度地域よりも低緯度緯度の方が雨が多く、また大陸では内陸部よりも沿岸部の方が雨が多く、気温の高さや水の供給源からの近さが影響を与えている。しかし、緯度と雨量は単純に対応しているわけではない。地球を南北に見ると雨量の多い地域は2つあり、1つは暖気が上昇し続ける赤道付近の熱帯、もう1つは寒気と暖気がせめぎ合う中緯度の温帯・亜寒帯である。 世界の年間降水量(雪を含む)を平均すると、陸上では約850mm、海洋では約1250mm、地表平均では約1100mmと推定されている。古い資料では世界平均で800mm程度とされていることがあるが、新しい調査で海洋のデータが判明したことで値は上方修正されている。また、「大雨」は災害の恐れのあるような雨を指して用いる。 雨粒は太陽光を反射分光し、虹を作ることがある。

◎ 雨粒の大きさと形状
雨粒の大きさは、通常は直径1mm前後で、概ね直径0.2 - 6mmの範囲内にある。小さなものほど落下速度が小さく、特に直径0.5mm未満の雨粒が一様に降る状態の雨を霧雨(きりさめ)といい、ほとんど浮遊しているように見えるとされる。一方、直径6mmを超えるような大きな雨粒は分裂しやすく観測されにくい。 雨が降ってくるとき、雨粒の密度は、1m3あたり10個 - 1,000個程度である。雨粒の大きさと密度の関係は、「マーシャル・パルマーの粒径分布」として表せる(マーシャルおよびパルマー、1947年)。実際には全ての場合に適用できる訳ではないが、大きな粒ほど密度が低い、おおよそ指数関数的な分布になっている。 雨粒の落下速度は、雨粒の大きさにほぼ比例する。相当半径0.1mm(直径0.2mm)では終端速度70cm/s、0.5mm(直径1mm)では4m/s、1mm(直径2mm)では6.5m/sである。2mm(直径4mm)では9m/sに達するがこれより大きくなっても速度はほとんど変わらず、約9m/sが最大値である。これらは雲が発生する際(レインアウト)、あるいは雨となって地上に落ちてくる際(ウォッシュアウト)、周囲の空気から取り込まれる。降水量の多い日本では、大気中から地表への沈着物質の6 - 7割が雨による湿性沈着だと考えられている。 雨自体に臭いはないが、雷により産生されるオゾン、湿度が上昇することによって粘土から出されるペトリコールや、土壌中の細菌が出すゲオスミンが雨が降るときの臭いの元だと言われている。 通常でも雨水は大気中の二酸化炭素を吸収するため、pH(水素イオン指数)は6前後とやや酸性を示す。雨が硫黄酸化物や窒素酸化物などを大気中から取り込み、強い酸性を示すものもある。一方、土壌や燃焼に由来するアンモニウムやカルシウム成分を取り込み、pHが中和されることもある。中国東部では、石炭資源が豊富なためその利用により硫黄酸化物が大量に排出されると同時に土壌から黄砂などに由来するアンモニウムやカルシウムが排出され、汚染のポテンシャル自体が高い割に酸性雨の被害は顕著ではない。大気中の二酸化炭素濃度を考慮した平衡状態がpH5.6であることから、この値以下のものを酸性雨と呼ぶが、pH5.0以下とする定義もある。 特殊な例として、雨と一緒に魚やカエル、穀物、木の実が降るような現象が世界各地で報告されており。

● 観測・報告


◎ 観測機器
雨の観測は主に雨量計や気象レーダーにより行われる。雨量計は標準化されており、日本では直径20cmの円筒形の器具が最も用いられている。雨量計は地点ごとの正確な雨量が分かるが、雨量は地域により大きく偏ることがあり雨量計だけでは雨の全体像を把握できない。一方、気象レーダーは面的に雨の強さの分布が分かるが、雨粒の大きさを測定できないため実際の雨量と大きな誤差が出てしまう。防災面では、両者の欠点を補うため雨量計やレーダーの情報を組み合わせてコンピューター処理した上で活用する。 日本の場合、防災を目的に気象庁のアメダス雨量計が国内約1,300か所に設置されている。また気象庁の気象レーダーは20か所に設置され、国内ほぼ全域をカバーしている。このほか国土交通省、都道府県、鉄道会社、電力会社などが、独自の雨量計やレーダーなどを保有している。 連続した雨量の観測記録の中でもっとも古く信頼できるものは、イギリス・ロンドン郊外のキューにおけるもので、1697年からの記録がある。このデータは、気候変動を論じる上で、降水量の長期変動を示す資料として引用されている。また日本では、1875年6月1日(気象記念日)に当時東京気象台で雨量の観測が始まった。 なお、雪が融けて雨に変わりつつあるとき、電波が屈折してしまうためその高度のレーダー反射は強くなる。これをブライトバンドという。さらに、雨粒以外のもの、例えば鳥や昆虫などの小動物、空気の乱れなどで異常な観測結果がみられることがあり、このようなものをエンジェルエコーと呼ぶでは、観測時に降っているか止んでいるか、雪・霰・雹を伴うかどうか、雷を伴う否か、雨の3段階強度や雷の3段階強度などの組み合わせで区分される天気から選択して報告する。強度の3区分は、時間雨量3mm未満で弱い雨、3mm以上15mm未満で並の雨、15mm以上で強い雨。雨を表す基本の記号は。 ラジオ気象通報などの日本式天気図では、観測時に雨が降っている場合に天気を「雨」とする。天気記号は。ただし、時間雨量に換算して15mm以上の強度で雨が降る場合は「雨強し」()、対流性の雲から降る雨(驟雨)は「にわか雨」に分類する。また、霰や雹、雷を伴う場合はそちらを優先して報告する。 航空気象の通報式では「降水現象」の欄のRAが雨を表す略号。強度を表す付加記号、驟雨や着氷性の雨を表す略号もある。

● 水循環と水資源
地球の水循環の中で、雲あるいは水蒸気として大気中に含まれる水は約13×1015kg、また年間の降水総量は重量にして約400×1015kg、高さにして平均800mmと見積もられており、約10日間で入れ替わることに相当する。なお、降水のうち陸地に降るのは4分の1で、残りの4分の3は海洋に降っている。ただし、陸域では降った雨のうち速やかに地表を流れるのは1割で、残りの9割は一旦地下に浸透して地下水に転じ、数か月から数百年をかけてゆっくりと湧出する。

◎ 自然環境
生物にとって雨は、生存に必要不可欠な水、しかも飲用に適した淡水を供給するという重要な役割をもつ。地上に生息する生物の多くは、雨が集まってできた水辺、地面にしみ込んだ後湧き出す泉やそれらが合流してできる川から生存に必要な水を摂取する。人間においても同様であり、海水淡水化施設を利用している一部を除けば、世界の水道水はほぼ雨に由来する淡水を利用している。 また、雨が地形に及ぼす作用は大きい。雨水が地形を削る浸食作用や、土壌に浸透することで土質を変化させる作用がある。植生も雨に左右され、雨の多い地域では森林が発達し、農業生産が盛んである。 また、例えば雨で地面が濡れると地中からミミズが這い出てきて、それを狙って鳥が低空飛行するという風に、生物には雨が降るとき特有の生態も多々ある。

◎ 雨水の利用
人類は、工業用水や農業用水、飲料水の利用、水力発電など、産業や生活を通じて雨水を源とする水資源を利用している。

● 文化・生活
雨の概念や雨に対する考え方は、その土地の気候によって様々なものがある。イギリス、ドイツ、フランスなど西洋の温暖な地域(西岸海洋性気候の地域)では「雨」を、いくつかの童謡にもそれが表現されている。 一方、雨が少ないアフリカや中東、中央アジアの乾燥地帯などでは、雨が楽しいイメージ、喜ばしいものとして捉えられることが多く、雨が歓迎される。

◎ 民俗
古来より人は、恵みをもたらす半面災厄をもたらす雨を、崇拝すると同時に畏怖していたと考えられる。端的な例として、ノアの洪水のみならず、世界の破壊や創造をもたらす洪水神話は世界各地に存在する。洪水神話は、雨の破壊性と創造性の2つの面を象徴していると考えられる。 また、世界の多くの神話や伝承において雨は、至高神、天神、雷神の活動の結果としてもたらされると解釈されている。メソポタミア神話の天候神アダド、ヒッタイトの天候神テシュブ、フェニキアの嵐の神バアルは天候を支配し雨や洪水を司るとされ、神の怒りが洪水や干ばつの原因だとして恐れられた。ギリシア神話では、全能の神ゼウスが雷を武器として他の巨人や神々と戦う際に雨が降るとされた。インド神話では、王インドラが雷神でもあり、悪竜ブルトラを退治することで川に水を取り戻し、田畑を干ばつから救ったとされる。日本神話では、スサノオがヤマタノオロチを倒した際にその尾から出た天叢雲剣が雲を司る神器とされる。スサノオが高千穂峰に降りた天孫降臨の際には、雨と風がもたらされたと伝えられる。 日本でも国や企業でもグリーンインフラと捉え、多くの試みがなされており、大成建設では「地上に降った雨水を下水道に直接放流することなく一時的に貯留し、ゆっくり地中に浸透させる構造を持った植栽空間」、鹿島建設でも「レインガーデンは降雨時に雨水を一時的に貯留し、時間をかけて地下へ浸透させる透水型の植栽スペース」として開発している。 レインガーデンは、植物と天然または人工の土壌培地を頼りに雨水を保持し、浸潤のラグタイムを長くし、都市部の流出水が運ぶ汚染物質を浄化・ろ過している。そして降った雨を再利用して最適化する方法を提供することで、追加の灌漑施設の必要性を低減または回避する。これは都市部のヒートアイランドの効果として知られる、熱を吸収する不浸透面を多く含む都市部で特に有効な緩和策である。雨の多い都市部ならば、降雨量の多い地区でも洪水が少ない場所を作ることができる。 レインガーデンの植栽には一般に野草、スゲ、イグサ科、シダ、低木、小木などの湿地の植生が活用される。これらの植物は、レインガーデンに流れ込む栄養分と水を取り込み、蒸散のプロセスを通じて地球の大気に水蒸気として放出させる。深い植物の根も、地面にろ過する追加チャネルを形成する。

● 地球以外の天体の雨
金星では、表面を覆う厚い硫酸の雲から硫酸の雨が降っている。しかし、地表が400℃を超える高温であるため、途中で蒸発してしまい地表には届かない。 土星の衛星のタイタンでは、-170℃の冷たい地表にメタンやエタンで構成される雨が降っており、川や湖のような地形も形成されていることが観測されている。

「雨」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(https://ja.wikipedia.org/
2024年10月12日15時(日本時間)現在での最新版を取得

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