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『砂の女』(すなのおんな)は、安部公房の書き下ろし長編小説。安部の代表的作品で、現代日本文学を代表する傑作の一つと見なされているだけでなく、海外でも評価が高い作品である。海辺の砂丘に昆虫採集にやって来た男が、女が一人住む砂穴の家に閉じ込められ、様々な手段で脱出を試みる物語。不思議な状況設定を写実的に表現しながら、砂の世界からの逃亡と失敗を繰り返していた男がやがて砂の生活に順応し、脱出の機会が訪れても逃げない姿に、市民社会の日常性や、そこに存在する人間の生命力の本質と真相が象徴的に描き出されている。
なお、『砂の女』は、短編小説『チチンデラ ヤパナ』(1960年)を長編化したもので、第一章の1から7の半ばまでは『チチンデラ ヤパナ』と重なっている。
安部は、砂の研究に生涯をかけたあるヨーロッパ人について言及し、砂の神秘や砂の魔力を、「とらえずにはいられないという、人間精神の根底にひそむあるものを、たくまずして暗示しているのではないでしょうか」と述べ、自身もそういった本を書いてみたいという思いで、『砂の女』を書き始めた。また、〈砂〉について以下のように語った後、小説『砂の女』では「現代のなかの砂」を描き、映画『砂の女』では「砂のなかの現実」を描いたものといえると解説している。
大佛次郎は、「『砂の女』は変わったもので、世上に繰り返されている小説ではなく、また二度と書き得ないもので、新鮮である」と評し、「私は新しいイソップ物語りとして愛読した」と述べている、以下のように解説している。
阿刀田高は、「小説の一番の面白さは、謎が提示され、それが深まり、最終的にそれが解けてゆくことだが、この作品はその構造を持っている。砂がもう一つの主人公になっていて、砂は日ごとに変わり、独特の模様を描き、無機的である。生きているような様相を持っているし、何もないように見えながら、生命体を隠していたりして、非常に不思議な存在の砂に目をつけたというところが、この小説の面白さじゃないかと思う。人間の自由とは何なのか? 自分たちが接している日常とは何なのか? と、根本から問いかけるような側面があって、男と女の根源にも問いかけるようなことも持っている。これだけ小説の望ましい姿が詰め込まれている作品は、なかなか見当たらない。このぐらいの小説を生涯に一つ書けたら、死んでもいいぐらいに(同作品に)惚れている」と評している。
● 翻案
◎ 映画
◎ ラジオドラマ
・森永乳業名作シリーズ 第12集『砂の女』(文化放送)
・1963年(昭和38年)3月4日 - 4月13日 毎週月曜 - 土曜日 9:25 - 9:45 (全36回)
・脚本:安部公房。演出:宮沢明。音楽:佐藤慶次郎。
・出演:下元勉(男)、奈良岡朋子(女)、高田敏江(恋人)、鈴木瑞穂(友人・メビウスの輪)、滝沢修(語り手・N)
◎ 舞台
・ケムリ研究室 no.2『砂の女』
・2021年8月22日 - 9月5日:シアタートラム
・2021年9月9日 - 9月10日:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
・上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
・音楽・演奏:上野洋子
・振付:小野寺修二
・出演:緒川たまき(女)、仲村トオル(男)、オクイシュージ、武谷公雄、吉増裕士、廣川三憲、町田マリー(声とシルエットのみ)
・企画・製作:キューブ
◎ 受賞
・第56回紀伊國屋演劇賞 個人賞(緒川)
・第29回読売演劇大賞 最優秀女優賞(緒川)
● 関連小説
◎ チチンデラ ヤパナ
短編。1960年(昭和35年)、雑誌『文學界』9月号に掲載された。1973年(昭和48年)3月20日に新潮社より刊行の『安部公房全作品7』に収録。のち新潮文庫『カーブの向う・ユープケッチャ』に収録された。
題名の「チチンデラ ヤパナ」とはの学名 のこと。
● 刊行本
・『砂の女』(新潮社、1962年6月8日)
・装幀:香月泰男。函表文:安部公房。函裏文:三島由紀夫、武田泰淳。218頁
・文庫版『砂の女』(新潮文庫、1981年2月25日。2001年、2003年改版) ISBN 4-10-112115-X
・カバー装画:安部真知。付録・解説:ドナルド・キーン)
・※ 2003年改版より、カバー装画:近藤一弥(フォト:安部公房)。
・シナリオ作家協会編『年鑑代表シナリオ集1964年度版』(ダヴィッド社、1965年5月31日)
・※ 映画シナリオ版が所収。
・『安部公房 映画シナリオ選』(創林社、1986年10月5日)
・収録作品:壁あつき部屋、不良少年、砂の女、他人の顔、燃えつきた地図
・※ 映画シナリオ版が所収。
・英訳
・ドイツ語訳 Die Frau in den Dünen / Deutsch von Oscar Benl und Mieko Osaki. Rowohlt, 1967
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